今年、ミャンマーで31年ぶりに国勢調査が実施され、8月30日に公表された暫定結果により、同国の人口は5,142万人だったことが判明した。今回の調査は、武装勢力との衝突が続く北部のカチン州や民族対立が残る西部のラカイン州等の一部の地域を除き、初めて全国規模で行う包括的なものだったことでも注目が高かった。

従来、ミャンマーの人口はIMFやADBによる推計値を参考に6,000万人超とされてきた。従って、実際の人口は今までの想定よりも約1,000万人少なかった。1983年に実施された前回の国勢調査の人口3,530万人を基に計算すると、過去30年間の平均年間人口増加率は1.2%に過ぎなかったことになる。今回の結果には外国に居住する学生や労働者は反映されておらず、これらの国民を加えると人口は更に増加する可能性もあるが、これまでの想定を下回るのは間違いない。尚、都市別では、最大都市であるヤンゴンが520万人、続いてマンダレーの120万人、ネピドーの110万人となり、都市人口は全人口の30%だった。

大きな誤差が生じたのは、人口予測が推計に推計を重ねられてきた結果である。国連は加盟国に10年ごとに国勢調査の実施を勧告しており、日本では5年に1回実施されている。しかし、ミャンマーでは長らく軍政による鎖国状態が続いてきたこともあり、国勢調査は実施されてこなかった。また、政治的要因に加え、予算の問題も障害だったと考えられる。今回の調査には74百万ドルの費用がかかっており、欧州諸国を中心とした援助によって実現した。従って、国勢調査は政治の安定と欧米諸国との関係改善が進展したからこそ実現できたという捉え方も出来る。

では、今回の結果により、ミャンマー経済に対する見方はどの様に変わるのだろうか。これまではタイに匹敵する人口を有すると考えられてきたが、そこまでの市場規模はなく、製造業の人材確保等もより慎重に見極める必要がある。一方、分母である人口が過大に見積もられてきたことで、一人当たりGDPはこれまで考えられてきた以上に高かったことになる。IMFによると、ミャンマーの一人当たりGDPは869ドル(2013年)だが、今回の国勢調査結果で再計算すると、1,100ドル近くに到達する。一人当たりGDPが2,000ドル以上と言われるヤンゴンだけでなく、全国的にも消費拡大が本格化する水準を迎えつつあるのかもしれない。

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実際、最近のミャンマーへの企業進出では、消費財や小売関連企業の動向が目立つ。例えば、飲料メーカーによる現地合弁企業の設立、ハンバーガーチェーンの出店、自動車ディーラーの開設等に加え、日本のコンビニやショッピングセンターの進出が検討されている。背景には、民主化の進展、基幹インフラの整備、規制緩和の実現といった投資環境の改善もあるが、購買力が従来の想定以上に高まっていることも企業の決断を早めているとみられる。

国勢調査の正式結果は来年5月に発表される予定であり、そこでは宗教や民族構成も明らかになると言われている。来年10月に大統領選を迎える中で多民族国家ならではの難しさも抱えるが、実態が明らかになることは不確実性の低減につながり、効率的な予算配分や更なる投資の呼び込みを通じた経済成長の加速が期待される。

コラム執筆:井上祐介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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