観光立国の推進に向けた機運が盛り上がっている。昨年は訪日外国人旅行者数が初めて1000万人を超え、今年も通年で1200~1300万人に達する勢いである。こうした中、政府は6月に「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014-『訪日外国人2000万人時代』に向けて-」を発表し、2020年に2000万人の高みを目指す目標を掲げた。日本の優れた観光資源を生かし、本プログラムに沿った官民の努力が続けられていけば、2020年の東京オリンピック開催等を追い風として、観光立国の実現も見えてこよう。
観光立国を目指す上での重要な視座は何か。その一つは、観光そのものを振興させる(タテ)とともに、グローバルな広がりを持ち様々な産業分野と連関している観光の波及効果を最大限に高める(ヨコ)ことではなかろうか。
■日本の観光の強みとポテンシャル(タテ)
まずは日本に対する外国人旅行者の見方を各種調査で確認し、観光の将来性を考えてみたい。結論から先に言えば、豊かな観光資源やおもてなしの姿勢、高い安全性といった日本の観光の強みは、外国人旅行者から高い評価を受けている。例えば京都は、先ごろ発表された米大手旅行雑誌「トラベル・アンド・レジャー」による読者投票で、人気観光都市の世界1位に選ばれた。京都の景観政策や市民によるおもてなし、和食の世界無形文化遺産登録などが総合的に実を結んだ快挙である。
また、世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」が実施した世界の都市調査では、東京が1位に輝いた。注目すべきは、評価項目の中の「人の親切さ」「タクシーのサービス」「道の清潔さ」「公共交通機関」で1位を得ていることであり、まさに日本が得意とするおもてなしや安全・安心といった点が外国人旅行者の心に響いているのである。
こうした強みは、昨年、世界経済フォーラムが発表した旅行・観光競争力ランキングでも高く評価された。日本は総合評価では140か国中14位であるが、「客に対する接し方」「安全な衛生へのアクセス」などの項目では1位にランクされている。
このように日本は世界に誇れる観光の魅力を有しており、今後、様々な施策が実施されていけば、訪日外国人旅行者の一段の増加が見込まれ、観光産業が拡大していく余地は十分大きいと言えよう。
■観光振興の切り口/波及効果(ヨコ)
次は、観光に関する様々な切り口と波及効果についてである。観光は裾野が広く様々な産業分野でメリットを得られるとともに、外国人との交流機会の拡大を通じて、多方面で波及効果が見込まれる。具体例として、以下を挙げてみたい。
①アジアの成長の取り込み
観光は日本にいながらアジアの成長を取り込む施策でもある。すなわち、アジアでは経済成長により中間層が増加していくが、そうした人々を訪日客として呼び込めば、旺盛な消費を取り込むことができる。日本にはアジアからの旅行者が多く、アジアの成長と訪日外国人の増加および消費拡大は連動する。
ちなみに、訪日外国人の旅行消費額は、昨年1兆4千億円にも達した。今年4月には44年ぶりに旅行収支(訪日外国人が国内で使う金額から日本人が海外で支払う金額を差し引いたもの)が黒字を記録している。
②地方創生への貢献
観光は政府が注力しようとしている地方創生の柱の一つになり得る。日本には津々浦々、国土環境に即した魅力的な生活、文化や景勝地があり、アクセスなどの環境が整備されれば、外国人は足を運ぶはずである。観光を通じて、全国で遍く幅広い分野の消費を喚起することが可能となり、地方創生に貢献できる。
③人的交流の促進
観光は人の往来の活発化を通じて、国同士の相互理解を深め、人的交流を促進する。人的交流の重要性は、例えば、今年4月のオバマ大統領来日時の日米共同声明(付属書)でもうたわれているが、観光振興は多岐にわたる分野での人的交流を促し、対外関係の緊密化に寄与する。
観光をタテとヨコに引き伸ばしていくことで、その効果は直接的にも間接的にも引き出され、価値は何倍にも高まっていく。そうすることにより、観光立国は一層輝きを増すことになろう。
コラム執筆:金子 哲哉/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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