アフリカ最大の経済大国といえば、南アフリカ・・・だったのですが、アフリカ最大の人口大国(1.7億人)ナイジェリアが、ついに南アフリカ(0.5億人)をしのぎ、No.1の座に就くことになりました。といっても、経済成長によって追い抜いた、というわけではありません。IMFや世界銀行等の助けを借りてGDPの基準年度変更(1990年→2010年)および再推計を行ったところ、これまでGDPを過小推計していたことが判明したのです。2013年の名目GDPの暫定推計値は5,226億ドルと、旧推計値2,865億ドルの2倍近くになり、南アフリカの3,508億ドルを大幅に上回ることになりました。近年、ナイジェリアは7%前後の高い成長を続けており(南アフリカは2~3%程度)、将来的に南アフリカを上回るであろうことは、これまでも確実視されていました。ところが、こんなに早く、しかも経済競争の果てではなく、統計の正確な測定によってあっけなくトップが交代するというのは、なんともアフリカらしいおおらかな話という気がします。

ただし、1人当たりGDPでみれば、ナイジェリアは再推計後でみても3,087ドル(旧推計値では1,692ドル)と、南アフリカ(6,621ドル)の半分以下でしかありません。世界銀行が発表している投資環境ランキングでは、南アフリカが189か国中41位と先進国並(36位ベルギー、38位フランス等)に良好であるのに対して、ナイジェリアは147位とかなり悪く、大きな差があります。また、GDPが増加したといっても、所詮は計算方法の変化に過ぎず、これによって既にビジネスを行っている企業の売上や利益が突然増加するわけではありません。

一方、企業の地域戦略の策定等の際に、ナイジェリアのGDPがおおよそ2倍の規模に変わったということは一定の意味を持つのではないでしょうか。進出先の国・地域を絞る際などには、GDPの大きさは重要な指標になります。また、今回の再推計では、とりわけ通信・IT等のサービス産業が、従来の想定よりもずっと大きい(3倍超)ということが明らかになりました。資源と農業に偏っていると考えられていたナイジェリアの産業が、実際にはもっとダイバーシファイが進んでいるという事実は、投資対象国としての魅力を高めることでしょう。さらに、種々の指標の基準化に用いられる名目GDPの増加は、基準化の際の分母が大きくなることを意味します。これは、とりわけ債務の計算上は有利に働きます。旧基準で19.4%であった政府債務は10.6%となりますので、財政の健全性の印象は改善することでしょう。

アフリカ最大の経済大国となり、潜在成長力も高いナイジェリアの将来への期待は大きいのですが、名実ともにアフリカの盟主となっていく上で、解決しなければならない課題も少なくありません。特に、イスラム過激派組織ボコ・ハラムによる女子学生の拉致や相次ぐテロ活動、また原油収入消失問題などにみられる政情の不安定性は強い懸念材料です。「アラブの春」の余波で、リビアから武装ごと帰参した出稼ぎ兵が、ナイジェリアや近隣のモーリタニア、マリ、ニジェールなどを含む「サヘル地域」を拠点として活発に活動していることも、政情不安を増幅しています。その他、アフリカ諸国で一般にみられるような、貧富の差の問題、電力不足、インフラの整備などは、ナイジェリアでも深刻な問題になっています。

このように、ナイジェリアは、アフリカ最大の経済大国となったと諸手を挙げて喜べる状況とはいえないのですが、それでもなお、アフリカ最大の経済が7%の高成長を続けているという事実は注目に値します。着実に増えている富をうまく分配・活用していけば、南アフリカに代わるアフリカ大陸の盟主と呼ばれるようになるのも、そう遠い未来のことではないように思います。

コラム執筆:安藤 裕康/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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