1. 「世界経済の成長率」「米国ドルの価値」が長期的な商品価格に影響2012年7月に拙稿「中国だけでは世界を救えない」
(http://lounge.monex.co.jp/advance/marubeni/2012/07/31.html)で指摘したとおり、
米国経済の重要性、特にその金融政策に世界の注目が集まっています。本稿では、世界経済および米国の金融政策(に伴う米ドル価値の変化)が各種商品価格に与える長期的影響をごく簡単な方法で整理してみたいと思います。
商品価格と言うと、各商品の需給や短期資金の影響に基づく予測が世の中には氾濫しています(そして、それらの多くが価格変動の後講釈に過ぎないこともまた事実です)。その背景として、多くの分析者が「短期予測」を行っているという事実が挙げられます。しかし商品需給や短期資金要因は長期的には商品価格に対して中立であり(需給も短期資金も長期的にはプラスマイナスゼロになるので、価格に影響を及ぼさない)、長期的な価格に影響を及ぼすのは、①世界経済の成長率、②米国ドルの価値、の2点ではないかと筆者は考えています。では実際に、①世界経済の成長率、②米国ドルの価値、の2要因だけで、どこまで商品価格が説明できるか調べて見ましょう。

2. 商品価格変動のかなりの部分は景気・為替といったマクロ経済要因で説明可能ここではこの種の分析を行うにあたって一般的と思われる重回帰分析を用います。具体的には
商品価格=
a×世界GDP成長率(※1)米ドル名目実効為替レート (※2)+c(定数)
(商品価格・世界GDP成長率・米ドル名目実効為替レートいずれも前年比変化率)という推計式を置き、係数a・b・cを求めるというものです。
まず最初の問題として、商品価格の定義を考える必要があります。候補としてロイター・ジェフリーズCRB先物指数が考えられますが、途中で計算方法が変更されるなど連続性の面で問題があります。そこでIMFのWorld Economic Outlook October 2013のデータベースに1980-2013年データが掲載されている全49商品(図表3参照)のドル建て価格を1980年を100とする指数に置き換え、その単純平均をとることで新たな商品価格指数を作成し、それを利用して上記推計式の係数a・b・cを算出してみました。その結果は下記の通りです。
商品価格=4.404×世界GDP成長率―0.578×米ドル名目実効為替レート―12.674(t=4.323) (t=―2.738)
サンプル数:33 決定係数:0.581
図表1は商品価格指数(前年比変化率)の実績値と、上記推計式を用いて算出した理論値を比較したものですが、理論値がそれなりに実績値に当てはまっていることが分かります。そこでこの推計式に図表2のような前提を当てはめて算出したのが、図表1・2に示した2018年までの商品価格指数(前年比変化率)の予測です。IMFによれば、2014-2018年までの世界の年平均インフレ率は3.6%なので、この予測によれば今後5年間の商品価格は世界のインフレ率を1%程度下回る伸び率で推移することになります。
正確な価格予測は困難です。ただ予測過程で示された「世界GDP成長率上昇は商品価格にとってプラス要因、米ドル名目実効為替レートの上昇は商品価格にとってマイナス要因
(※3)」というセオリーは改めて確認しておきたいものです。

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3.50日ごとに開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文を熟読すべきこのように、長期の商品価格を予測するにあたっては、世界実質GDP成長率や米ドル価値といったマクロ経済が非常に重要な役割を果たすことが分かりました。各種商品の長期価格変動のグラフを用意し、遠くから眺めて見るとかなり似通った動きをしていることが分かりますが、この背景にもマクロ経済があります。従って、商品価格予測を考えるにあたり、個々の商品特性を考慮することも大切ですが、まずは大枠であるマクロ経済、特に米国経済・金融政策を注視することから始めることが大切です。
では何から始めればいいでしょうか?筆者は米国の連邦準備制度理事会が約50日に1回開催するFOMC(Federal Open Market Committee=連邦公開市場委員会)の後、公表される声明文 を熟読することをお勧めします。これを熟読するメリットとして、①連邦準備制度理事会の一流のエコノミストの経済観測を知ることが出来る(景気)、②米国経済や世界経済を左右する米金融政策の意図を知ることが出来る(ドル価値)、③連邦準備制度理事会は独立組織であるため、バイアスの少ない中立的な情報を得ることが出来る、が挙げられ、これだけで商品価格予測に必要なマクロ経済知識を手っ取り早く得ることができます。特に②は意図を持って動く現象ですので、予測可能性が比較的高く、最重要です。同声明文(英語)は独特の表現が用いられていること、コミュニケーション重視の観点から近年長文化していること、といった難点はあります。しかし最初のうちは新聞に掲載される同声明文の日本語訳を参照しながら読めば、徐々に慣れてくると思います。慣れてきたら、次は声明文の比較です。前回と比較してどの部分が変わったかに注意して読み、その都度マクロ経済観を修正していくのです。これらの作業は多くのエコノミストが習慣としている、極めてコストパフォーマンスの高い方法です。是非皆さんも一度お試しください。

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(※1)購買力平価ベース
(※2)国際決済銀行のものを利用。「実効」とはドルの対ユーロ、対円など多数の通貨に対する総合的な変化を意味します。2010年を100とする指数で表示され、数字が大きくなるとドル高、数字が小さくなるとドル安を意味します。
(※3)ドル価値が上昇すれば、より少ないドルで商品が買えるようになるので。(※4)米ドル名目実効為替レートの前提は、直近のドル高局面であった1995-2001年までの年平均変化率を用いました。

コラム執筆:シニア・アナリスト 榎本 裕洋/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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