エビの価格が上昇している。外食産業ではエビを利用したメニューを変更、販売休止にするなどの動きが見られており、エビ価格高騰を日常生活でも実感できる状況である。サイズや産地により異なるため一概には言えないが、2012年比で卸値が2倍近くにまで値上がりしている場合もある。通関価格でみると、9月の輸入単価は前年比+41%の価格の上昇となっている。【図表1】(注1)

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エビの輸入先は、ベトナム、インドネシア、タイといった東南アジアがメインとなっているが、2013年の初めごろにタイでEMS(Early Mortality Syndrome:早期死亡症候群)という病害が発生し、生産量が激減した。足元ではタイでの生産量が40~60%に落ちているとも言われており、加えて中国、ベトナムにもEMSの発生が拡大し、世界的に品不足となっている。【図表2】(注2)

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筆者は、エビ=ブラックタイガーという印象を持っていたが、2000年代半ば頃から、耐病性に優れ養殖効率の高い「バナメイ」の生産が拡大し、日本での流通が「ブラックタイガー」を上回るようになった。そして今回、広く流通するようになった「バナメイ」でEMSが発生しため、価格高騰にみまわれることとなった。
折しも食品表示偽装の問題が話題になり、「バナメイ」と言う名前も人口に膾炙するようになったが、実は数年前から私たちの口に入るエビの大半が「バナメイ」であった事を認識していた方は少ないかもしれない。確かに、2000年代半ばにハンバーガーチェーン店でエビバーガーが採用され、有名モデルがキャンペーンキャラクターに登用された際には、「エビ」好きの筆者は喜び勇んで買いに走ったものであったが、それも「バナメイ」の登場による価格低下の賜物であったことは当時知る由もなかった。
この、エビ価格高騰の原因となったEMSという病害に対する抜本的な対応策は依然確立していないものの、親エビを入れ替える、養殖の密度を低下させる、養殖水を浄化する、といった方法により病気の蔓延を防止できるともみられており、今後は徐々に生産量は回復していく事が見込まれる。
しかし、エビの大量生産国であった中国でも生産量が激減しているためマーケットが一層タイトになっており、価格の高止まりが継続する可能性もある。一度メニューから外されたエビが飲食店で再び採用されるには時間を要する場合もあり、エビが高嶺の花になってしまうかもしれない。

よりマクロな点に視点を移せば、世界的な健康志向や新興国の所得上昇に伴い水産品需要が拡大しており、エビに限らずマグロやその他、水産品の価格が上昇傾向にある。海外需要の拡大を考慮すると、水産品全般に関して引き続き価格上昇圧力が働き続けることも想定される。
エビ、サケ・マス、マグロを中心に毎年大量の水産品を輸入している日本にとって、この水産品価格の上昇は非常に悩ましい。【図表3】【図表4】

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漁業大国でもある日本が毎年1兆円以上の水産品を輸入している理由として、日本で取れない(国産だけでは供給量が不足する)水産品を輸入する、もしくは、国産品が割高であるため代替品として輸入する、ということが考えられるであろう。前者に関しては当然輸入に頼らざるをえないが、後者に関しては、「日本産の方がモノは良いけど、値段が高いので輸入品で我慢している」というのが一般的なイメージではないだろうか。
しかし、必ずしも実情はそうではない。たとえば、サバは年間5.2万トン輸入している一方、輸出はその倍以上の10.7万トンとなっている。そして驚くべきことに、その平均価格は輸入単価が213円/kgに対し、輸出単価は86円/kg(以上2012年実績、通関ベース)となっており、「安い魚を輸出、高い魚を輸入」しているのである。サバは、ノルウェー産の脂がのったものを輸入し、日本で取れる小ぶりで安いサバを海外に輸出しているのが実情であるが、こういった状況を消費者はあまり認識していないかもしれない。(注3)

私たちは往々にして、「日本産品」=「高品質だが高価」というイメージを持ちがちであるが、モノによっては必ずしもそうではない場合もある。同じく、サンマやイワシも国内で大量に取れるため、安い価格で大量に輸出されている魚である。これらの実情を考えると、「必ずしも高品質なものを輸出する必要はないのではないか。」といった見方もできる。(注4)
上述した魚介類だけでなく、携帯電話や液晶テレビ等の家電製品をみても、必ずしも「日本産は(値段が高いが)高品質な点で競争力がある」と言える時代では無くなっている。
比較優位のある製品を生産し、輸出するというのが経済の大原則であり、労働コストや技術力を考慮すると、日本が高付加価値な製品や部品の輸出に特化するのは自然な流れである。一次産品についても、安全性トレーサビリティーの確実さ、均質化された見た目の良い形状など、高品質な農水産物に国際的な引き合いがあるのも事実であり、そういった商品で海外の富裕層や高所得者層のニーズをとらえていく事は勿論重要である。
しかし、世界中で拡大していく中間層の需要を取り込んでいくには、クオリティを問わず、比較優位のある製品・サービスを輸出し、シェアを獲得していくという方向性も当然あってしかるべきであろう。
今後、TPPにおける関税撤廃、日本製品に対するクオリティのキャッチアップ等、国境線が消滅して需要獲得が激化する状況において、「高品質な日本製品」といったレッテルにとらわれない輸出戦略に視点をシフトしてみることも必要かもしれない。

(注1)品種や産地に関わらず、輸入総額を輸入数量で割って算出しているため、実際の卸値や市場価格とは異なる。また、円建て価格のため、為替要因も存在。

(注2)2009年頃に、中国で稚エビを池入れしてから10~30日の内に斃死するEMSの発生が確認され、2010年から2011年にかけてベトナムでも被害が拡大した。参考:FAO Fisheries and Aquaculture Report No. 1053

(注3)日本から輸出されるサバは、1位:タイ、2位:ベトナム、3位:ガーナ(以上2012年実績)となっており、タイ、ベトナム向けは缶詰用が中心で、一部は日本に再び輸入されている。

(注4)一部の日本産の魚介類の品質が高くないという背景には、乱獲による漁業資源の悪化、水揚げ後の管理手法の遅れ、漁業の大型化の遅れなど、産業特有の問題も存在する。

コラム執筆:常峰 健司/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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