中国の経済成長率は、5四半期連続で7%台に留まっている。本来、新政権は発足する年では、景気を持ち上げていい滑り出しにするインセンティブがある。しかし、3月に発足した新政権は、高成長追求よりも構造改革優先の政策スタンスを貫いてきた。新政権の予定任期10年という時間軸で俯瞰すれば、山積する課題を個々撃破していかないと、安定した経済成長の維持は難しくなるわけは、明白である。
まず喫緊の難題は、4兆元景気対策の弊害を取り除くことである。リーマンショック後に中国は世界最大規模の景気対策を実施することで、いち早く経済成長を取り戻した。しかし、その大半はインフラ建設に投入され、従来からある鉄鋼などの過剰設備問題や、地方政府の債務問題をより深刻化させた。さらに、これらの投資に銀行は積極的な投融資を実施し、理財商品(インフラプロジェクト等を原資産とした資産運用商品)を中心としたシャドーバンキングの膨張といった新しい難題も出てきた。
新政権は、足元では具体的な対策として、過剰な投資を抑制するほか、①融資平台や過剰業種をリスト制による管理を強化し融資抑制や債権回収状況などを監視監督する、②過大な理財商品の規模を銀行総資産の6%弱から4%程度に縮小する、③理財商品の充分なリスク開示・銀行貸出本業からの切り離しなど正常化を図る、④金利自由化によって銀行業のリスク審査の厳格化を促す、ことを着々と実施している。
中長期で見れば、「国内消費拡大、投資・輸出依存の是正」を構造転換の目標にしている。経済構造のアンバランスを助長した現行の推進体制を中心に、①行政改革、②国有企業の民営化、③銀行の健全化の『三大改革』を断行することで、安定した経済成長の維持を図っていくと見られる。
中国の潜在成長率については、労働人口の伸び鈍化とテクノロジージャンプなどの後発性優位の逓減により、2015年当たりを境に減速が早まるシナリオが一般的に指摘されている。新政権にはこうした改革を通して、任期前半で力を蓄え後半で持ち上げる、というふうに任期中において7%台の安定成長を図る狙いが、深層にあろう。すべての改革は未曾有のビッグミッションで、既得権益層からの反発も大きいだろうが、背水の陣の覚悟で成し遂げないと成長が止まり社会不安に陥りかねないという強い危機感を新政権は持っている。
7%台の成長は、「これまでに比べ物足りない成長」であり、中国10%成長を想定した資源供給能力では過剰となる。足元では、全般的なコモディティ市況は軟調な地合いが続く。ただし、こうした「中成長」が中長期的に維持できれば、資源供給はそれに順応した形で調整されるため、市況は安定して来るであろう。
コラム執筆:シニア・アナリスト 李 雪連/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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