5月22~24日にかけて、安倍首相が日本の総理大臣として36年ぶりにミャンマーを訪問した。テイン・セイン大統領との会談では、ミャンマーの民主化及び経済改革への支援を約束すると共に、5,000億円の延滞債務の解消と910億円の政府開発援助(ODA)の実施に合意している。ミャンマーへの経済支援は、同国の発展にとって大きな意味合いを持つのはもちろんだが、今後の日本経済の在り方を考える上でも重要だ。
ミャンマーでは工業団地の整備をはじめ、電力、上下水道、通信、輸送分野等のインフラ不足が深刻であり、海外からの投資誘致における障害になっている。例えば、電化率は20%前後と近隣諸国に比べて極端に低く、乾季には都市部でも停電が頻発する状態が続いている。国民一人当たりの発電量は隣国タイの20分の1の水準であり、本格的な経済成長への移行に伴い、インフラ需要の急速な拡大は容易に想像できる。
最近発表されたマッキンゼーのレポートによると、ミャンマーが年間8%の経済成長を実現するためには、2030年までに累計6,500億㌦の投資が必要であり、日本への期待も大きい。今回、日本が表明したミャンマー向け支援も、発電所の改修や日本が主導して開発するティラワ経済特区の整備といったインフラ投資に充てられる見通しである。
一方、新興市場国の成長を取り込むことで国内経済を活性化させていくことは日本が描く将来像である。6月に発表される予定の成長戦略では、現在約10兆円のインフラ輸出受注を2020年までに約30兆円に拡大させることが盛り込まれる見通しである。目標を達成するには、これまで実績が集中する電力分野だけでなく、交通、情報通信、上下水道等、幅広い分野における企業の海外進出が不可欠となる。
政府はこれまで以上に日本企業の海外展開を本格的に支援する姿勢を見せている。5月に発表されたインフラシステム輸出戦略では、トップセールスの精力的な展開、経済協力資金・スキームの有効活用といった官民連携の推進を中核的な支援策として明記している。今回のミャンマー訪問には約40名の企業幹部が同行しており、まさにトップセールスと官民連携によるインフラシステム輸出の推進を実行に移した形だ。
しかし、新興市場国における欧米企業との競争も激しさを増しており、成果を挙げるのは容易ではない。ミャンマーでは、GEが5月にヤンゴン支店を開設したのに加え、コカ・コーラやハイネケンといった消費財企業の現地生産に向けた動きも加速している。テイン・セイン大統領は安倍首相の訪緬直前に米国を公式訪問する等、欧米との関係改善を進めていることからも、今後は官民連携による取り組みがますます重要になるとみられる。
コラム執筆:井上祐介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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