「ビッグデータ」という言葉を最近よく目にするようになりました。日経テレコンで書籍辞書を除いて記事検索をしてみると、2010年に1年間で9件というのが最初です。米国の状況の紹介が主体でした。翌2011年では、624件と一挙に約70倍になりました。更に2012年が3,425件、2013年に入ると、4月24日までの約4ヶ月で1,594件、年間4,800件ペースです。

もちろんデータ量そのものも2年で倍増とも言われるほど急拡大しています。人のネットワーク利用の拡大や、温度や湿度、振動など様々な状況を検知・情報化するセンサーが様々なところで使われるようになり、急速なデータ量の増加をもたらしているのです。また、技術の進歩が従来では実用上難しかった大容量・高速処理を可能にしていることもデータ量増大に一役買っています。

「ビッグデータ」の定義として確立されたものはありませんが、平成24年版情報通信白書では、「ビッグデータ」を「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」としたうえで、「ビッグデータビジネス」を「ビッグデータを用いて社会・経済の問題解決や、業務の付加価値向上を行う、あるいは支援する事業」と説明しています。これだけでは、具体的なイメージが分かりにくいと思いますので、情報通信白書にも掲載されているホンダのinternaviの例を紹介します。

internaviが装備されたホンダ車は、走行中、最短5分毎に走行データを発信します。利用者は145万人で、ホンダのセンターでは、ここから集まる情報や、公的な主要幹線交通情報を総合的に分析し、リアルタイムでの渋滞情報や数時間先の渋滞予測に基づき、最適な回避ルートを選択、走行中のinternavi装備車に配信するというものです。ホンダのサイトでは、1時間強の走行で約20分の時間短縮になるとの例を紹介しています(※1)。毎月延べ1億km分の走行データがアップロードされており、2012年5月末時点で、25億km分の走行データが蓄積されているとのことです。

このシステムは、大量のデータを扱うことはもちろんですが、その他にも、①リアルタイム処理であるということと、②様々なデータを統合処理していること、③過去の膨大な渋滞パターンから利用経路における将来の渋滞を予測するという状況判断のサポートをしている、といった点で従来のデータ処理とは違う特徴を持つといえるでしょう。

また、ローソンやサンリオといった日本の流通・サービス企業が230億円で投資ファンドを設立し、米国シリコンバレーのIT企業に出資するという話しもあります。膨大な販売情報や顧客情報といった「ビッグデータ」を米企業の最先端のデータ解析技術と結びつけ、効果的な商品開発や販売促進につなげることを目指しています(※2)。

また、民間のみならず、政府サイドでも、国や地方自治体などが保有する公共データを共有財産として開放し(オープンデータ化)、社会的な課題解決に向けた新たなサービス/産業の創出・育成につなげようとの機運も高まっています。

マッキンゼー・グローバル・インスティチュートが2011年7月、ビッグデータ分野がこれから大きく成長するとのレポートを出しています。それによれば、例えば、米国のヘルスケア分野の市場ポテンシャルは約30兆円(3,000億ドル)とされています。日本の市場についても、上述の情報通信白書では、10兆円の付加価値創出と10~15兆円の社会コスト削減につながりうる、との見通しを示しています。

「ビッグデータ」ビジネスについては、まだまだ試行錯誤の段階と言えますが、業界では、実際の社会やビジネスの場で活用する事業例が、これから増えてくるステージに入ったとの見方もあるようです。日本は、他先進国と比べると企業のICT活用が後れており、また、公的なデータ開示の度合いも低いとされています。逆に言えば、伸びしろは非常に大きいと言えます。まだまだ日本企業も新規投資の積み増しには慎重姿勢を崩していない現状ですが、今後、「ビッグデータ」の活用が、国内1億人超の成熟マーケットの活性化に繋がることを期待したいものです。

※1 http://www.honda.co.jp/internavi/ 2013年4月25日現在
※2日本経済新聞 電子版2013/2/23

コラム執筆:猪本 有紀/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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