2012年通年の貿易総額は、輸出が63兆7476億円、輸入が70兆6886億円となり、その結果6兆9411億円の貿易赤字となった【図表1】。2年連続の貿易赤字となった主因は、「原油及び粗油」や「液化天然ガス」を中心とした鉱物性燃料の輸入増加であることはよく知られている。
足元における円高の是正は輸出産業にとって追い風となり、輸出の拡大が期待できるであろう。しかし、同時に輸入価格も上昇するため、日本のエネルギーを巡る環境が抜本的に変化しない限り、2013年も燃料輸入を主因とした貿易赤字の傾向が続く可能性は高いだろう。

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この貿易赤字を、視点を変えて貿易相手国別にみると、【図表2】のとおりとなる。原油輸入先であるサウジアラビアやアラブ首長国連邦、石炭・鉄鉱石の輸入先であるオーストラリア、LNG輸入の急増したカタールなど、資源の輸入相手国が軒並み上位に位置しているのは【図表1】の主要輸入品目と整合的である。また、日本にとって第一の貿易相手国である中国からの輸入超過も、想定の範囲内といえよう。

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このように資源国や中国が貿易赤字の相手国として連なる中で、若干毛色が異なるのが、フランス、イタリアである。
この両国からの主要輸入品目を見ると、化学製品や機械類といった産業向けの品目が上位にあるが、その他に目に止まるのが「雑製品」と「飲料及びたばこ」である【図表3】。もう少し細かく見ると、その主品目は「バッグ類」と「ぶどう酒」である。つまり、両国からの貿易赤字の一因として、ワインやバッグといった消費財が一角を占めていることになる。

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まず、「飲料及びたばこ」について、日本のワイン輸入相手国を見てみると、フランス、イタリアが上位に位置している。そして1996年以降、ワインの輸入先は1位フランス、2位イタリアといった構図が定着している【図表4】。筆者はワインの赤と白の違いがわかるほどの大のワイン好きだが、なんとなく「ワインと言えばフランス」というイメージを持っており、この印象は大方の日本人に共通であろう。もちろん、近年ではヨーロッパ以外の国からの輸入も台頭しており、「チリ産のコストパフォーマンスがよい。」「いやいや、カリフォルニアワインは世界一だ。」「南ア産のクオリティが高い」等、輸入先の多様化と共に好みも分かれるところであろう。とはいえやはり、11月になるとボジョレヌーボーが何かと話題になるように、日本人にとって、ワインと言えばフランスなのである。
また、輸入単価(輸入総額/輸入量)を算出すると、フランス産ワインは他国のワインと比べて高級品であることがわかる。もちろん希少価値の高い高価な一部のワインに価格が押し上げられている可能性は否定できないが、貿易統計上、日本の輸入するワインは量・質共にフランス産がNo.1というのが現状である。

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続いて、フランス、イタリアからの主要輸入品目中で目につく「雑製品」であるが、そのなかでは「バッグ類」と「衣類及び同付属品」が大きな割合を占めている。(フランス:37%、イタリア:65%)
確かに、エルメス、シャネル、ルイヴィトン(以上フランス)、グッチ、フェラガモ、プラダ(以上イタリア)など、ファッションに疎くとも、鞄や洋服の高級ブランドとして思い浮かぶブランドがこの両国には数多く存在する。ワインと同様に、「高級ファッションブランド=フランスorイタリア」といった構図が日本人の多くの頭の中にあるだろう。
実際この両国からの「バッグ類」、「衣類及び同付属品」の輸入超は継続しており、リーマンショック後の落ち込みから近年は復調しつつある【図表5】。また、日本の輸出企業にとっては逆風であった円高も、輸入サイドから見れば購買力が上昇することになり、ラグジュアリーブランドの日本における売り上げ回復の一因となっていたと考えられる【図表6】。

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以上で確認できたように、燃料輸入の拡大を背景とした貿易赤字の継続が話題となる中で、フランス、イタリアからの意外な貿易赤字要因が存在することを忘れてはいけないだろう。
足元では、円安・株高を追い風として景気回復期待が高まっている。このトレンドが継続し、所得の上昇や、株高による資産効果が顕現してくると、「いつも飲んでいるデイリーワインを、ちょっと高めのワインに。」、「妻への誕生日プレゼントをブランドバッグに。」といった形で、高級品への志向が高まっていくことが想定される。その際、伝統的に高級ワインやブランドバックといった奢侈品の輸出国であるフランス・イタリアがその強みを発揮し、両国からの輸入が拡大する可能性が高い。
貿易赤字を論じる上で、原油や自動車といった品目に比べ、ワインやバッグといった身の回りの品目は、は見過ごされやすいかもしれない。しかし、景気回復過程においては産業向け品目の貿易動向だけでなく、高価な身の回り品や、その輸出国との貿易動向に注目しておくことも必要かもしれない

コラム執筆:常峰 健司/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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