前回の記事では、ICTの発達・普及により世の中はやがてスマートシティ化していく流れを説明させていただいた。今回は、広い意味でのスマートシティには、実は、大きく分けて2つの異なる概念があることをご説明したい。
日本でのイメージが強いのはエネルギーインフラとICTの融合による「狭義のスマートシティ」で、電力供給側の視点に立っている。具体的には、電力の需給の全体最適化を図って安定供給を実現するものとして欧州で進んでいる「スマート(賢い)グリッド(送配電網)」を基本としながら、グリッド外の電気自動車や定置型蓄電池等の蓄電システムを活用して電力供給の安定化・効率化を図るものである。
例えば、翌日の天候が日照も風も弱いと予想される夏場の昼過ぎに向けて、需要家には電力使用の時間帯のシフトを呼びかけるとともに、その時間帯は街を走行する電気自動車から電力をグリッドに流しこむ、といった調整を行うもので、エネルギーマネジメント機器や電気自動車用急速充電器の普及を図り、天候予測による電力の需給バランスの予測技術、デマンド・レスポンス事業者、V to G技術等を活用し、面的にも大規模な取組みが行われる。そのため、取組みの主体もハードウエアを製造販売する大企業となることが多い。
これに対し、LED電球や省エネ家電等を積極的に活用する等して各需要家が節電(エコ)の部分最適化を図ることによって自然発生的に成立するスマートシティ(ここでは「スマートなシティ」と呼ぶ)の概念がある。職住接近や廃棄物リサイクル等も手段として挙げられるとおり、「スーパー・エコタウン」とでも呼ぶほうが直感的でわかりやすい。「スマートなシティ」は比較的小さなコミュニティ(住民、自治体、NPO等)が主体となる取組みであり、企業が参画する場合も地場の零細・小企業等が名を連ねることが多い。
この点で、スペインの企業連合と米マサチューセッツ工科大学(MIT)が共同開発した折り畳み可能な電気自動車Hiriko(写真)を、新潟県が日本市場導入にむけて研究する取組みにも、地域主体の活動として注目したい。
(出所:2012年12月18日新潟県報道発表)
また、ICTの進歩、特にネット環境の充実により、建築物や大きなハードウエアに頼らなくても実現可能な「スマートなシティ」が身近なものとなりつつある。例えば、交通系ICカードの利用等によって蓄積された膨大な乗車履歴データを解析することにより、公共交通機関の路線やダイヤが最適化できる余地は大きいと思われる。
【表】 「狭義のスマートシティ」と「スマートなシティ」の対比
スマートシティの2つの概念(上表)には、需要のピークカットを目的にするという共通点はあるものの、上で述べたような大きな違いがある。しかし、マスコミ報道や国の予算要求資料等を見ても、2つの概念が混用されているようで、スマートシティの実現が遅れる原因にもなっているのではないか、と思われる。
例えば、経済産業省の計画では、前回のこのコラムでとりあげた北九州市東田地区でのスマートシティ実証実験や横浜でのスマートシティ実証試験の成果を被災地の復興に活用するそうだが、大都市で実証された狭義のスマートシティを被災した小さなコミュニティにパラシュート的に移植することは、果たして現実的なのだろうか?
実証試験の成果がとりまとめられるまで被災した土地に手を付けるのを待つことにもなるし、地元企業の参画できる余地が狭くなるという問題がある。新政権でも東日本大震災の被災地の復興に全力を投入するとされているが、被災したコミュニティを時代に見合った「スマートなシティ」として復旧させることが、地元経済の活性化を含めた真の復興への「スマートな」選択なのではないかと思われる。
コラム執筆:松原 弘行/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
注1)Demand Response。電気料金の価格設定やインセンティブの支払いによって、需要家の電力使用パターンを変化させる仕組み。
注2)Vehicle to House。車載用蓄電池に貯めた電力を家庭用に利用。
注3)Vehicle to Grid。車載用電池に貯めた電力をグリッド(系統)に供給。
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