東アジアの鉄鋼産業は供給過剰の状態が続いている。日本の国内需要の縮小に中国、韓国の設備増強が重なり、需給ギャップは簡単には解消できない状況だ。

日本の粗鋼生産はここ数年、1億トンを上回る水準を維持している。一方、内需は6,000万トン程度に過ぎず、生産量の4割を輸出している。内需の低迷に製造業の海外移転も重なり、今後も鉄鋼需要の大幅な回復は見込みにくい。

中国では2011年の粗鋼生産が6.8億トンに達した。過去10年間でみると、生産量が毎年5,000万トン拡大している計算になる。鉄鋼消費量も増加しているものの、需要の伸びは供給増に追いついていない。機動的な生産調整も実施しにくく、現在は1億トンの鋼材在庫を抱えていると推測される。これは内需の1割程度と言われる適正在庫水準を大幅に上回っている。この結果、中国も日本と同様、恒常的な鋼材の輸出国となっており、2011年は3,000万トンを超える輸出超過となった。

韓国の2011年の粗鋼生産量は6,800万トンにまで拡大した。韓国では鉄鋼を多く使用する造船や自動車産業が製造業の中核を担っているため、人口当たりの鋼材見掛消費量が1,000キロを上回っている。これは日本の2倍に相当する水準であり、世界でも突出して高い。更に、内需の伸びが鈍化しているにも関わらず、新たな高炉の稼働等により、この2年間で粗鋼生産量を2,000万トンも増やした。この結果、韓国も鋼材の純輸出国に転じ、現在は、日中韓の3国で日本の内需を上回る約8,000万トンの輸出超過状態にある。

それでは、日中韓の余剰生産分はどこに吸収されるのだろうか。中長期的にはインドに大きな期待が寄せられるが、当面は5億人の人口を要し、経済発展で先行するASEAN諸国が注目されよう。中でも、タイやベトナムは人口当たりの鋼材見掛消費量が100キロを上回ってきており、鋼材消費が急激に拡大する局面に達している。実際、足元のタイの自動車産業は好調だ。2012年1~8月の生産台数は前年同期比33%増の148万台に達し、新車販売台数と共に史上最高記録を更新する勢いである。

中国の余剰在庫の調整に要する期間やASEAN諸国における耐久消費財需要の本格的な普及時期を考えると、東アジアの鋼材需給ギャップが解消に向かうのは2015年頃であろう。それまでは、海外市場の獲得で激しい競争が繰り広げられ、鋼材や原料市況の上値も抑えられる状況が続くとみられる。一方、2015年以降の業界環境も楽観はできない。中国が新たに建設を許可した2カ所の1,000万トン級の高級鋼材基地が2015年に完成する予定であり、今度は日本が得意とする高級鋼材分野での競争激化が予想される。

コラム執筆:井上祐介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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