復興庁が2012年9月4日に「原子力発電所の事故による避難地域の原子力被災者・自治体に対する国の取組方針」を発表しました。2年後をメドに避難指示解除が見込まれる区域等の環境回復・インフラ復旧・生活基盤の回復を早期に構築することで、住民が生活の再建に本格的に取り組める環境を構築することになっています。

阪神淡路大震災の時には、補正、本予算を含めて6年間に5兆200億円の国家予算が投入され、震災の約半年~1年後に復興需要のピークが観察されるというように、成長率を高める効果がありました。単純な比較はできませんが、東日本大震災の場合には、本格的復興予算の成立が遅れたこともあって、復旧・復興活動に出遅れ感がありました。平成23年度の予算で計上された復興費計14兆9243億円のうち、4割近い5兆8728億円が23年度中に使われなかったことにも象徴されています。特に、原子力発電所事故の被害を受けている福島県では、宮城県・岩手県に比べて当面の復旧工事以外の復興需要の勢いが弱くなっていますが、人口が流出していることに加え、除染を先行させないと本格的なインフラ整備等も進めにくいという心理が働いているようです。このように、福島のV字復興は除染事業の進捗にかかっています。

ところが現実は、賠償交渉が除染事業の進捗に影を落としていたことが一因とはいわれていますが、国の直轄で本格的除染を行う対象の11市町村のうち、具体的な除染計画がまとまっているのは6市町村(田村市、南相馬市、楢葉町、川内村、飯舘村、川俣町)のみに留まっているなど、除染がはかどっていないことに歯がゆさも感じられました。
そんな中、7月25日から環境省による本格的な除染事業がいよいよ田村市で始まりました。

(環境省のウェブサイト

同市の解除準備区域にある住宅約400宅、道路約41ヘクタール、農地約150ヘクタール、民家近くの森林約270ヘクタールを対象に、鹿島建設など3社でつくる共同企業体(JV)が入札で受注して作業を行っています。国のロードマップによれば、避難指示解除準備区域(20mSv/年以下)となる地域については、まずは10~20mSv/年の地域から、今年度内の作業完了を目途に除染を実施していく計画です(詳細は下の工程表参照)。楢葉町、川内村、飯舘村等、他の町村でも作業の発注は進んでおり、これらの区域に住んでおられた皆さんが帰還できる日が近づくでしょう。

【環境省報道発表資料 「新たな避難指示区域ごとの除染工程表」】

一方、こうした旧来の除染技術だけでは効率が低く、仮置場や中間貯蔵施設の容量の限界も作業の進捗の制約となりかねないのですが、環境省では先端技術の開発も積極的に進めており(下の研究例1、2。出所:環境省報道発表資料)、将来の大規模な除染活動の効率が飛躍的にアップして1日も早く除染が完了することに期待したいと思います。

【研究例1:担体固定化吸着剤を用いた環境中からの小規模分散型セシウム回収プロセスの実用化(東京大学)】

【研究例2:空気揚土撹拌式洗浄装置を用いた放射性セシウム汚染土壌の減容化方法の開発(大阪大学)】

除染が終われば、かつて1万人の雇用と域内総生産の6割超を担っていた電力関連産業に代わり、新たな産業が創出されることでしょう。例えば、小名浜港については、洋上風力発電といったエネルギー政策を進めるための産業・物流の拠点として、福島の復興と再生を支えることが期待されています。丸紅らが経済産業省から受託して福島沖で建設中の大規模浮体式洋上風力発電所実証研究も順調に進んでいるようです。(本プロジェクトの詳細

アニメ「宇宙戦艦ヤマト」の最後のシーンは、地球に帰還するヤマトの船影が赤茶けた地球の縁に消えて行くと、「西暦2200年9月6日ヤマト生還」のテロップが出て、地球の色が静かに青く蘇る、とても感動的なシーンでした。除染の進む福島が活気と希望に満ちたエリアに蘇るのも、まもなくのようです。

コラム執筆:松原弘行/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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