18世紀後半、蒸気機関の発明により、人や動物の力を動力としない「自動車」が人類の歴史に初めて登場しました。19世紀末には、ゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツによって初めてガソリンエンジン自動車が実用化され、1908年、米フォード社が初の量産自動車である「T型フォード」を発売したことで、自動車の爆発的な普及が始まりました。当時の世界のGDPは現在の10分の1にも満たないと推測されますが、T型フォードは、約20年の間に世界で1,500万台という驚異的な売上を記録しました。

最近の日本では「若者の車離れ」が指摘されるようになっていますが、多くの国、とりわけ新興国においては、現在でも自動車の販売には勢いがあります。実際に、1人当たりGDPが一定値を超えると自動車の普及(モータリゼーション)が始まるという経験則があり(図表1)、新興国では、近年の経済成長とそれに伴う所得水準の上昇により、自動車販売が急速に増加しています。

図表1 自動車保有台数の人口比と1人当たりGDP

では、今後の新興国の成長によって、世界の自動車需要はどのような姿を描くのでしょうか。図表1の関係を用いれば、将来の1人当たりGDPと人口の値から、当該国の自動車の保有台数を推計することができます。自動車の保有台数と販売台数は関係性が高いため、保有台数が推計できれば、最終的に販売台数(需要)を算出することが可能です。将来の1人当たりGDPの予測は容易ではありませんが、ここでは、主要国の過去30年間の1人当たりGDPとその伸び率の平均的な関係(所得水準の上昇につれて伸び率は緩やかに低下)を用いて、各国の1人当たりGDPが徐々にスピードを落としつつ成長していく姿を想定することとします。人口予測については、国連が公表している予測値を用います。

この結果得られた将来の自動車需要の推計値をまとめたのが図表2です。上述したような簡便な推計方法によるラフな試算値ではありますが、世界の自動車需要は、2010年の7,400万台から2020年には1億1,400万台、2030年には1億6,500万台に拡大する見通しです。30年後、40年後の推計値ともなると誤差も相当なものと予想されますが、2040年は2億3,000万台、2050年は2億8,000万台程度との推計値になっています。

図表2 世界の自動車需要の長期予測

また、地域別にみると、アジアの増加が顕著で、中南米がこれに続きます。また、所得水準が低く、当面の販売台数は小さいサブサハラ・アフリカについても、将来的な伸び代は大きいと言えます。市場が成熟している先進国では大きな伸びは見込めませんが、新興国を中心として、世界の自動車の普及余地はまだ十分にあると結論付けることができそうです。

コラム執筆:

安藤 裕康/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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