7月1~5日にかけて、シンガポールでは第5回シンガポール国際水週間(SIWW)が開催されています。SIWWは、世界各国の政策立案者、企業、専門家等が集結し、水に関する諸問題を協議する毎年恒例の国際会議です。昨年は13,500人の来場者が集まる等、水ビジネスの一大集積地となったシンガポールを象徴するイベントです。

シンガポールは、2006年に水関連産業を戦略分野に位置付けると同時に、水事業のグローバル・ハブを目指し、産業集積、技術開発、国際展開の三つに力を入れてきました。具体的には、研究開発のための環境整備や新技術の実験場の提供等で海外の有力企業を誘致し、国内の新興企業の技術水準の向上を図ってきました。その結果、2006年以降、水関連分野でシンガポールに拠点を構える企業数は100社以上に倍増し、約6,000億円の海外プロジェクトの獲得に成功しています。現在、水事業が同国GDPに占める割合は0.3%ですが、2015年にはこれを0.6%にまで引き上げる計画です。

そもそも、シンガポールには大きな河川がなく、国土面積が小さい上に地形が平坦なため、貯水に向きません。このため、水不足に悩まされてきた歴史があり、今も必要な水の多くを隣国のマレーシアからパイプラインで輸入しています。こうした恵まれない水事情を抱えているからこそ、水事業の将来性に早くから目をつけたのかもしれません。

当然ながら、水ビジネスの強化と並行して、長年の課題である水不足の解決にも取り組んでいます。現在、雨水の貯水、マレーシアからの輸入、下水の浄化、海水淡水化を「4つの蛇口」にしていますが、マレーシアからの輸入契約が切れる2061年までに水の完全自給を目標にしています。中でも、運河の河口を堰き止めた貯水池の造成やNEWaterと呼ばれる下水の再処理水の製造等、目標達成に向けた画期的な取り組みが注目されています。

シンガポールは水不足の解消という課題を出発点に水ビジネスに重点的に取り組み、自らの弱みを強みに変えることに成功しました。魅力的な投資環境を整備することで外国企業の研究開発拠点を誘致し、SIWWを通じて自国の取り組みの発信や業界関係者との接点の拡大を図っています。更に、ハイフラックスをはじめとする地元企業がこれまで蓄積してきたノウハウを海外に展開することで、同様の課題を抱える地域においてビジネスの獲得を実現しています。とくに外国企業とのパートナーシップの強化や企業誘致のためのインセンティブの提供等、シンガポールの取り組みは日本の成長戦略を考える上でのヒントにもなりそうです。

日本企業も世界の水ビジネスでは一定の存在感があります。とくに、水処理膜を製造する日東電工や東レをはじめ、部材製造やエンジニアリング分野では高い技術力を有しています。また、水事業の運営には商社が参画している他、自治体も豊富なノウハウを蓄積しています。シンガポールとの連携も深めており、直近では、東芝が4月に排水処理の技術開発を目的にシンガポールの研究開発センターである「ウォーター・ハブ」への進出を発表しています。新興市場国の人口増加及び経済発展に伴い、今後も水ビジネスの拡大が予想される中、水事業のグローバル・ハブとしてのシンガポールの役割にも更に注目が集まりそうです。

コラム執筆:井上祐介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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