中国の自動車市場は、リーマンショック後、世界的な販売不振が響く中、3年連続で新車販売台数世界一を維持した。背景には、購買力の向上のほか、減税や補助金交付等による需要喚起の効果が大きい。需要の先食いが懸念される中で、先行きはどうなるのか、検討中の『自動車産業第12次五ヵ年規画』から読み解いてみる。
【1】3年連続で新車販売世界一
中国の自動車市場の発展を簡単に振り返ってみると、世界で最初のガソリン自動車誕生より70年遅れて、1956年に中国で自動車の生産が開始された。1992年に初めて100万台を突破するまで、約40年を要した。2000年以降発展が加速しほぼ毎年100万台増という凄まじい勢いで伸びてきた。この勢いが続けば、2008年には1000万台を突破する可能性さえ出ていた。しかし金融危機の勃発は、自動車市場の発展に水を差した。最終的には前年比55万台増の934万台に止まった。
2008年夏以降に続いた販売不振は、中国政府が実施した減税や補助金交付といった需要喚起策により一掃され、2009年には430万台増の1364万台、2010年には440万台増の1806万台へと驚異的な伸びを示した。減税は2009年から2年間に渡り、排気量が1.6リットル以下である軽乗用車を対象に実施された。対象車種の販売台数は、2008年の420万台から10年には946万台に拡大し、乗用車販売全体に占める割合は、62%から69%に上昇した。
減税の恩恵を大いに受けたのは、軽乗用車を主に生産するBYDや浙江吉利などの民族系である。そのほか、北京現代や長安フォードマツダ、東風日産などの外資系も大幅に販売台数を伸ばした。中国自動車工業協会の統計によると、2010年の北京現代の乗用車販売台数は58万台で、メーカー別順位は2008年の第8位から、上海GM(96万台)、上海VW(91万台)、一汽VW(84万台)に続く第4位に躍進した。BYD(52万台)は、2008年の14位から東風日産(56万台)に次ぐ第6位へと大幅に順位を上げた。浙江吉利(42万台)及び長安フォードマツダ(41万台)は、2008年よりそれぞれ1位ずつ順位を上げ、第6位の奇瑞(50万台)に追随した。
2011年に入って、需要喚起策の打ち切りを受けて、販売台数の伸びが大幅に鈍化している。通年の販売実績は1851万台と、前年同期に比べて、44万台増加(2.5%増)に止まった。ただし、世界を見渡せば、第2位の米国(1278万台)を大きく引き離しており、3年連続でトップの座を維持した。
【2】2015年2500万台市場へ
自動車産業政策の中核である『自動車産業第12次五ヵ年規画(2011~2015年)』は、近々公表される予定だが、その中身についての報道によれば次の4点が注目されている。
第1に、2015年の国内新車販売台数目標は、2500万台とされている(北京晨報2011/7/11)。年平均130万台の増加(年率7.8%増)となる。2000年以降の実績(年平均150万台増加、年率2割増)に比べても、過大な速度とはいえない。ただし、筆者はリーマンショック後のわずか2年間で860万台も増加したことによる需要の先食いを考慮して、2015年の販売台数が400万台少ない2100万台となると見ている。いずれにしても、中国の2010年時点の自動車普及率は、1000人当たりに60台であり、日本の1割程度しかなく、普及拡大の余地は極めて大きい。
2011年に中国で1343万台の乗用車が販売され、その平均取引価格は約130万円だった。米国の同200万円台に比べても、それほど遜色のない価格である。さらに、所得水準を考慮すると、米国では平均的には年収の半年分相当の車が購入されているが、中国では3年分に当たる。車をステータスのシンボルとして、背伸びをしてより高級車を購入する傾向が見られている。中国人のこうした消費性向に合致した市場戦略やブランド構築に力を入れてきたドイツ勢(21%増238万台)及び米国系(前年比13%増の157万台)は、大幅にシェアを拡大した。日本勢は、2011年の販売台数は281万台と外資系の中で依然圧倒的なシェアを有しているが、伸び率では3%増に過ぎない。リコール問題の影響が無視できなかったが、今後は日本車の安全性に対する不安の払拭のほか、中国人のライフスタイル・消費性向に合わせた市場戦略の構築も、急務となろう。
第2は、自主ブランド車の強化である。国内販売台数に占める自主ブランド車の割合を、2010年の3割強から2015年には50%に引き上げる一方、自主ブランド車の輸出を促進し、国内販売台数の10%以上の規模拡大を目指す。台数に換算すると、自主ブランド車の国内販売台数を600万台から1250万台に拡大し、同輸出台数は60万台弱から250万台に増加することになる。日中両国の自動車工業協会の統計によると、2010年に中国は18万台の乗用車を輸出し、1台当たりの平均価格は7千ドルだった。日本は1台当たりに2万ドルで427万台を輸出した。技術力やブランド力が形成されないうちには、価格の低さは市場を獲得する足がかりとなろうが、長期でみて競争力を高めるためには、研究開発力や技術革新力の向上を積極的に奨励しなければならない。
第3は、業界再編の促進である。中堅企業同士の再編や、中小企業の吸収合併などを通じて、老朽化した生産設備の淘汰を加速させると同時に、産業の集積度を引き上げる。目標として、年間生産販売台数が300万台を超えるリーディングカンパニーを2~3社、同150万台を超える中堅企業4~5社を育成していく方針が盛り込まれているようだ。ただし、民族系企業の代表格であるBYD、奇瑞、浙江吉利の3社の年間販売台数は40~50万台と、上海GMや上海・一汽VWの同80~100万台の半分程度に過ぎないことから、これら民族系のリーディングカンパニー化を視野に入れるならば、大規模な業界再編が加速することになろう。
第4は、エコカーの普及促進である。短期ではハイブリッド車などの省エネ車の普及に力を入れ、中長期的には電気自動車を中心とする新エネ車の量産化を図る構想となる。日本では世帯当たりの乗用車の普及率が1割から5割へ上昇したのは10年を要し、8割までは15年かかった。中国において日本と同様に普及が進めば、乗用車保有台数は、2020年には2億台、2035年には3億台を突破することになる。中国の国内原油生産は2億トン程度で頭打ちとなっており、自動車保有台数の増加に伴って増大するガソリン消費分は、もっぱら輸入に依存する。深刻なガソリン不足というネックを考えると、燃費の向上や、新エネ車の普及促進は急務であるといえる。
中国政府は、2020年までに小型電気自動車を中心とする電気自動車の量産化を計画している。2011年7月にドイツ政府との間で電気自動車の共同研究開発を進める声明を出したほか、電気自動車の発展計画では米国、EU、日本の発展戦略を意識した内容が盛り込まれている。外資も中国のエコカー市場に目を向けており、日産自動車は2012年中にも、中国で電気自動車の生産を始める計画である。トヨタも2011年末に日本と米国のほかに、中国においてもプラグインハイブリッド車や電気自動車などの新エネ車の実証実験にも取り組み、中国国内向けの技術開発を進めると発表した。
コラム執筆:李雪連/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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