2012年3月上旬にロシアに出張しました。ご存知の通り今世紀に入ってから、原油・天然ガス輸出でロシア経済は着実に拡大しています。今回の出張でも行く先々で資源国ロシアの豊かさを実感しました。一方、日本のみならず世界的な共通認識として、「資源依存経済=悪」という見方があります。「資源依存経済は資源価格に左右され不安定である」というのがその理由のようです。

しかし、資源国ロシアは先に述べたとおり着実に成長していますし、同じく資源国である米国や豪州も長期的に見れば安定成長しているように見えます。そこで資源国、特に石油輸出国の経済成長が本当に不安定なのか、データを用いて検証してみました。

利用したデータはIMF World Economic Outlook 2011年9月のデータベースから入手しました。分析対象国は下記のデータが揃う138ヶ国です。

【1】 1980-2010年の実質GDP成長率

【2】 2010年の石油輸出依存度(石油輸出額÷名目GDP×100、%)

まず実質GDP成長率の安定度を測定するため「経済成長変動係数」という係数を定義します。計算方法は下記の通りです。

経済成長変動係数=1980-2010年までの実質GDP成長率の標準偏差(振れ幅)÷1980-2010年までの平均実質GDP成長率
以下に記載の図は、経済成長変動係数のイメージ図です。

●図表 1 経済成長変動係数のイメージ図

丸紅経済研究所作成

例えば、1980-2010年までの平均実質GDP成長率が4%で、標準偏差(平均を基準とした場合の振れ幅)が8%とすると、経済成長変動係数は8%÷4%=2となります。この係数で注意したいのは、標準偏差(振れ幅)が同じでも、平均実質GDP成長率が異なると係数も異なってくる点です。一般に新興市場国の平均実質GDP成長率は先進国のそれよりも高いため、同じ標準偏差(触れ幅)であれば、新興市場国の方が先進国よりも安定しているという結果になり易い点には注意が必要です。

以上の計算方法に基づいて、石油輸出依存度(大きいほど石油輸出依存度大)を横軸に、経済成長変動係数(大きいほど経済成長変動が大)を縦軸に、対象138ヶ国を散布図に打点してみました。

●図表 2 石油輸出依存度と経済成長変動係数の関係

丸紅経済研究所作成

図表2だと縦軸の5以下に点が集中してしまい、傾向が分かりません。そこで大胆に外れ値(グラフの上方にある点)を無視し、図表3を作成しました。

●図表 3 石油輸出依存度と経済成長変動係数の関係

丸紅経済研究所作成

図表3を見ると、石油輸出依存度と経済成長変動係数の間には明確な相関性は無いようです。慎重を期すため、今度は先進国グループであるOECD加盟30ヶ国と石油輸出依存度上位30ヶ国の経済成長変動係数を比較してみました。

●図表 4 OECD加盟30ヶ国と石油輸出依存度上位30ヶ国:経済成長変動係数の比較

(丸紅経済研究所作成)

まず図表3の一番下の(経済成長変動係数の)平均を見ると、圧倒的に石油輸出依存国の方が数字が大きく不安定です。しかし、中身を詳細に見ると、石油輸出依存国の安定度を悪化させているのはリビアであり、リビアを除く29ヶ国の平均は1.7となります(全調査対象138ヶ国の平均は2.2)。興味深いのは、資源国である豪州がOECDの中で最も経済成長変動係数が低く、経済的に安定していることでしょう。

ではなぜOECD諸国と石油輸出依存国の経済成長安定度が大きく違わないのでしょうか。あくまでも仮説ですが、あらゆる国は世界経済の大枠から逃れられないからでしょう。具体的には世界経済が良いときには原油価格も高い、世界経済が悪いときには原油価格も低い、ということです。このような枠組みの中では、いかに産業構造を多様化しても経済を完全に安定化させることはできません。経済安定化の決定打とは、世界経済の動きを打ち消すような経済政策(金融・財政政策)であると考えられます。

以上の考察は「資源国=不安定」という既成概念にとらわれず、成長市場であればまずは何ができるか考えよう、という前向きな教訓を与えてくれます。実際、資源依存度の高い中東諸国は、総合商社にとって長年に亘る顧客であるという歴史的事実もこの教訓を裏付けてくれます。

コラム執筆:榎本裕洋/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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