新興国のグルーピングの1つである "BRICs" は、今ではすっかり人口に膾炙した用語となり、構成国による国際会議まで開かれるようになりました。もともとはゴールドマン・サックスのジム・オニール氏が2001年に作り出した造語ですが、今では同4カ国が新興国を代表する存在になっているのですから、卓越した先見の明があったと言えます。

BRICs諸国は先進国と比べるとまだ発展途上の段階にあり、換言すれば、引き続き高成長が期待できる最有望市場と言えるのですが、それ以外の新興国の成長も著しいため、BRICsに続く有望な新興国を確認しておくことも意義があるでしょう。この「BRICsの次」に当たる国々については、現時点では世界的に定着したと言えるグルーピングはないように思いますが、BRICsを生み出したゴールドマン・サックスでは、 "ネクスト11" として、イラン、インドネシア、エジプト、韓国、トルコ、ナイジェリア、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、メキシコの11カ国をリストアップしています。

有望な新興国といっても、どの要素を重視するかによって、あるいは投資家の立場等によっても大きく変わりうるため、次々と新たな新興国が台頭する中にあって、新しいグルーピングがBRICsのように定着するのは難しいかもしれません。そこで、主に経済成長性と投資のしやすさというポイントに注目した場合は、どのような国々が抽出されるのかを考えてみたいと思います。

ある経済の成長性を見る場合、成長のスピードと経済規模の両面を考慮する必要があります。実際の指標を用いれば、成長のスピードは「実質GDP成長率」、経済規模は「実質GDPの世界シェア」と見做すことができ、成長性(今後の当該経済の拡大余地)はその積、すなわち「世界の実質GDP成長率への寄与度」と考えることができます。

世界経済を先進国と新興国の2つにグループ化してみてみると、1990年代後半頃より、新興国の成長のスピードが加速し、実質GDP成長率が先進国を大きく上回るようになりましたが、経済規模が先進国と比べるとまだ小さかったため、世界GDP成長率への寄与度は拮抗していました。一方2000年代に入ると、新興国が先進国を上回るスピードで成長を続ける中、経済規模の差も徐々に縮小し、世界GDP成長率への寄与度は新興国の方が大きくなりました。現在は、先進国と新興国の経済規模はほぼ同程度となり、成長スピードには大きな差があるので、まさに新興国が世界経済を牽引する姿になっています。

この考え方を各国経済に適用して、どの国が世界経済の成長を牽引していくのかを考えてみましょう。先行きのGDPの成長率とシェアにIMFの見通しを用いて(世界成長率への寄与度が0.02%以上の国のみ抽出)、さらに世界銀行の投資環境ランキングを用いて投資のしやすさ毎に分類したのが下表です。

成長性という観点で上位5位に入るのは、米国とBRICsの4カ国ですが、米国は先進国であり、成熟した市場であるため、新たな投資チャンスの大きさからすれば、やはりBRICsの4カ国が最も魅力的な市場と言えそうです。ただし、いずれも投資環境のランキングは低めです。

新興国でBRICsに次ぐ成長性を秘めるのが、ASEANの大国、インドネシアです。これに、メキシコが続きます。それ以下の新興国は同程度の成長性の国々が多数並びますが、投資環境の良好な国々に絞れば、タイ、サウジアラビア、マレーシア、コロンビア、南アフリカ、ペルーが抽出されます。

また、投資環境は劣りますが、ベトナムとフィリピンも(成長性の高い国を抽出した)表の中には入っており、ASEAN5の地域としての魅力が窺われます。地域という観点では、ブラジルを筆頭に、コロンビア、ペルー、アルゼンチンと多く抽出されている南米も魅力的と言えるでしょう。こうした国・地域が、「次のBRICs」を占う上での1つの目安になりそうです。

コラム執筆:安藤 裕康/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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