韓国はOECD諸国の中でも電気料金が安いことで知られています。IEA(国際エネルギー機関)の統計によると、韓国の電気料金(2009年)は産業用で1kWh(キロワット時)当たり5.8セント、住宅用で同7.7セントとなっており、日本の約3分の1の水準です。韓国の電気料金の安さの秘密はどこにあるのでしょうか。

韓国の電力事情を見ると、まず発電燃料の構成に特徴がみられます。韓国では、相対的に安いとされる石炭及び原子力発電の比率が高く、発電全体の約8割を占めています。発電燃料については、多様なエネルギー源のバランスを重視してきた日本の戦略とは異なり、経済性を最優先したエネルギー・ミックスを選択していると言えます。また、韓国では発電用の石炭の約3分の1は自国内で生産しており、国際価格よりも安価で燃料の一部を調達出来ているというメリットもあります。

次に、産業用の電力需要の多さが目立ちます。韓国では、産業用の電力需要が全体の約5割に達していますが、これは産業用が約3分の1を占める日本に比べ、かなりの高水準です。産業用電力は、住宅用に比べて時間帯別の需要変動が小さいため、電力の需給調整に係るコストの削減や発電設備の利用率の上昇につながり、発電コストの抑制に貢献します。

最後に、政府の産業政策との関係も指摘できます。韓国では、政府が株式の過半数を所有するKEPCO(韓国電力公社)が送配電及び電力販売を一手に担っています。そして、電気料金はKEPCOの申請に基づき、商業・貿易・工業等を管轄する知識経済部が認可する仕組みとなっており、政府は電気料金の決定に大きな権限を持っています。KEPCOは過去3年間、発電コストに見合う電気料金の徴収が出来ずに赤字が続いています。このことからも、外需依存度の高い経済構造を持つだけに、ウォン安政策や低い法人税等と並んで、政府が輸出産業の競争力支援を目的として政策的に電気料金を抑制していることが考えられます。

こうした電気料金の抑制政策には当然ながらマイナス面もあります。例えば、実勢からかけ離れた料金の持続可能性の問題があります。また、徴収不足分は最終的に税金で賄うことになるため、納税者の負担増になります。更に、極端に偏ったエネルギー・ミックスは、発電所のトラブルや燃料調達問題が生じた場合、安定供給の面で脆弱性を持つといった問題もあります。しかしながら、韓国の事例は、明確な政策目標を持ち、それに合わせた戦略を実現しているという点では、日本の電力政策の在り方を考える上でも参考になる部分がありそうです。

コラム執筆:井上祐介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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