商社の業界団体である日本貿易会では、毎年12月に当該年度の輸出入金額の実績見込み及び次年度の予測数値を公表している。その特徴は、社内外に対するヒアリングに基づき商品ごとに輸出入動向を予測、その積み上げをベースに全体の予測数値を作成している点である。昨今では、調達、製造、販売など一連の生産活動には国境をまたいで無数のパターンがみられるようになっており、積み上げの方法を採ることで、貿易の構造変化を捉えることがある程度可能になる。特に、今年度は東日本大震災やタイの洪水によって、為替、世界経済成長率などマクロの数字から輸出入を見通すことがほぼ不可能であり、商品ごとの積み上げをもとにした貿易会の予測はある程度の示唆を与えるものになっているのではないかと思われる。

最新の見通しは、2011年12月2日に発表された。今回は、震災の与える影響が特に注目される点であろう。そうした中、2011年度、最も落ち込みの大きい輸出品目は何だろうか。震災直後、全国の工場で生産がストップした自動車がまず思い浮かぶ。たしかに、自動車輸出は、上半期(2011年4-9月期)に前年比▲18.4%(金額ベース、以下同様)と、全品目(貿易会の分類)の中で最大の減少幅となっている。しかし、下半期には、供給制約がほぼ解消し、各メーカーが増産に転じたことから、2011年度全体では前年比▲6%前後の減少にとどまる見込みである。

自動車を上回る最大の落ち込みを見込むのは、重油など石油製品を中心とする鉱物性燃料である。貿易会の見通しでは、2011年度に、▲12%程度の下落を予測している。これは、震災に伴う国内の製油所の稼動停止の影響が大きい。一方、2012年度は、停止していた製油所の生産再開や石油製品の国内需要の減少により、前年比+50%超の大幅なプラス転化を見込んでいる。

他にも、今年度、10%前後の減少を見込む輸出品目には、食料品、鉄鋼、半導体等電子部品、パソコンなど電算機類の部品などがある。食料品は原発問題などを背景とした日本食品の忌避の影響が長引き、年度を通じて10%超の減少を見込む。特に、下半期には東北地方での生産が比較的大きい魚介類などの割合が上昇するため、輸出環境の大幅な改善は見込めない状況である。

一方、鉄鋼、半導体等電子部品、電算機類の部品は、震災の影響という一時的な要因に他要因が加わり落ち込みを見せている。鉄鋼は韓国、中国での生産能力の拡大や輸出先での需給の軟化、半導体等電子部品はアジアを中心とした在庫調整や円高による価格低下、電算機類の部品は、海外生産拠点のシフトや海外メーカーへの生産委託、タイの洪水による部品不足などが落ち込みの主因となっている。

一方、輸入で、最大の増加を見込むのはLNGである。LNGの輸入は、震災後、原子力代替需要の拡大により数量ベースで前年比+10%以上の伸びが続いており、これに原油価格に連動した価格要因が加わり、11年度は+40%増になると予測している。この他にも、石炭、原油、重油などの石油製品などでも価格上昇を主因に大幅な増加を見込んでおり、これらが全て含まれる鉱物性燃料は、11年度で21.1兆円となり、前年比+16%、前年差で3兆円増加となっている。

この他にも、クールビズ・ウォームビズ関連商品、タバコなどの一時期的な輸入増加や代替輸入、一次産品価格の高止まり、円高の影響もあり、輸入は輸出に比べ、比較的強めの数字となっている商品も少なくない。

こうした商品ごとに予測数値を積み上げた結果、輸出総額は、2011年度で66.5兆円、2012年度で69.2兆円となり、2012年度には10年度(67.8兆円)を超える水準まで回復する見込みである。ただし、2006年度(77.5兆円)、07年度(85.1兆円)にははるかに及ばない水準である。一方、輸入は、2011年度に67.0兆円、2012年度66.0兆円となり、こちらも2010年度(62.4兆円)を大幅に上回る。この結果、通関ベースの貿易収支は、2011年度は5,700億円の赤字、2012年度は3.2兆円の黒字を予測する。貿易赤字が恒常化することはないものの、貿易黒字が震災の前の水準まで回復するのは当面困難だとみられる。

コラム執筆:安部直樹/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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