中国の五ヵ年計画とは、5年間を単位に策定・実施する国の行動計画の通称である。1953年の毛沢東の時代に第1次五カ年計画がスタートし、2011年からは第12次5カ年規画(注)がスタートした。ここでは、同規画の特徴及び、注目されるビジネスチャンスについて、簡単にまとめてみる。

【1】 第12次五カ年規画の3つの特徴

第1に、強国(国を強くする)から富民(国民を豊かにする)への方針転換である。建国から60年間は国家の規模拡大に注力したが、今後は故鄧小平氏が唱えた「三段階発展戦略」の第3段階「21世紀半ばまでに中進国入り」を目指して、国民全員を豊かにしていく方針だ。具体的には、「GDP成長率以上の住民所得の増加」や、「都市・農村間、地域間、産業間の収入格差の縮小」などの施策が挙げられている。

第2は、外需から内需へのシフトである。中国政府は、投資・輸出への過度な依存を是正すべく、「内需を長期的に拡大し、消費・投資・輸出のバランスのとれた経済成長への転換を促進する」とした。貿易について、外需の安定した拡大を図る一方で、輸入を拡大して貿易収支の均衡化を促進することが明記された。また、消費市場規模の拡大とエコ消費の促進の両立、投資についても合理的な規模拡大を奨励する一方で、非効率な投資を抑制するという「アメとムチの政策」を取るとしている。

第3は、低炭素社会の構築である。中国のエネルギー効率は日本の半分程度に過ぎず、GDP単位当たりのCO2排出量も日本の6倍と多い。低炭素社会の構築に向けて、2011-2015年にはGDP単位当たりのエネルギー消費量は16%、同CO2排出量は17%の削減を公約した。

【2】 注目する3つのビジネスチャンス

こうした方針転換により、資源や要素価格の上昇、環境規制強化によるコストアップで企業収益が圧迫される懸念がある一方、多くのビジネスチャンスも到来する。キーワードは内需、インフラ、環境の3つがある。

中国の国内民間最終消費は約2兆ドルで、日本約3兆ドル、米国約11兆ドルに比べて規模が小さい。しかし、所得増加や内需拡大策の下で、2015年には日本を上回り、2040年には40兆ドル程度に拡大し米国を抜いて世界最大の消費市場になるとの試算もある。日用品初め、食料品、不動産、自動車等巨大なチャンスが潜んでいる。

電力や、高速鉄道などのインフラビジネスも注目されている。例えば、スマートグリッドを含む電力インフラの整備には、2020年までに4兆元を投資する計画である。目玉の特別高圧送電網の整備には6000億元が投資される見通しだ。因みに、日本のみが現在中国で特別高圧線の実績を持っている。

環境については、最近注目されているのは初めて五カ年規画に盛り込まれた「7大戦略的新興産業」である。具体的には、省エネ・環境保護、次世代情報技術、バイオ、ハイテク設備製造、新エネ、新素材、新エネ自動車などが入っている。投入される研究開発費の総額は、5年間の累計で4兆6000億元と推定される。これら7産業のGDPに占める割合は2009年の2%から、2015年には8%(5兆元)、2020年には15%(8兆元)に拡大する見通しだ。省エネや環境技術に優れる日本企業にとって、潜在的な市場規模は大きい。

図:丸紅株式会社 丸紅経済研究所作成
※ グラフをクリックいただくと拡大版をPDFファイルでご覧いただけます。
(注)2006年から始まる第11次から、計画経済の象徴である「計画」をやめて、市場経済下のガイドラインであることを強調する「規画」に変更した。
以上

コラム執筆:李雪連/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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