1.買い取ってもらえなかった純銅製フライパン

先日、ある方から純銅製のフライパンを頂きました。芸術品とも言えるほど見事なものでしたが、私の腕では使いこなせないため、買い取ってもらうべく近所のリサイクルショップ2社に見積もりをお願いしました。すると両社とも「引き取りはするが、金は払えない」との返事。昨今の資源価格高止まりを背景に、高額買い取りを予想していた私の期待は見事に裏切られてしまいました。

その時、ふと「確かに銅にしても金にしても、人間が生命を維持するには直接役に立たない。それなのになぜ『有事の金買い』と言うのだろう?」と思いました。金の価値が安定しているから、というのが一般的な答えでしょうが、実際にそうなのでしょうか?そこで金や銅を含む様々な商品の過去30年間の価値推移を調べてみました。

2.過去30年間では金の価値安定性は突出せず

調査にあたり、まずは「価値安定」を、【1】ドルの価値を持続的に上回り続けること、【2】相対的な価値変動が小さいこと、と定義します。そして、IMFのWorld Economic Outlookデータベース (2011年9月)に掲載されている各種商品価格のうち、1980年からデータが取れる47商品と金を調査対象とし、米ドルの価値を1.0として、上記【1】、【2】を測定しました。

まず【1】について、1980~2009年の平均価値上位10商品は図表1の通りです(1.0を上回れば米ドルより価値が高い)。金の過去30年平均価値は0.9と米ドル(1.0)を下回り、48商品中では21位となりました。そして意外にもコーヒー(Robusta種)が1位となりました。次に【2】について、1980~2009年の変動係数(数字が小さいほど変動が小さい)を調べてみたところ、金は48商品中変動係数の小さい方から数えて33位にとどまり、その価値変動もさほど小さくはないようです。

図表 1 価値水準安定度上位10商品(米ドル=1.00、各商品価値は2005=1.00が基準)
(図表1 丸紅株式会社作成) クリックするとダウンロードPDFが表示されます。
つまり過去30年間について長期的・平均的に見る限り、金の価値の水準・変動いずれについても際立った安定性を見出すことは出来ませんでした。

3.価格の基調は実需が作る

上記はあくまで過去30年間の実績を長期的・平均的に見た結果であり、これをもって金という商品の優位性を否定するものではありません。投資商品として金は長い歴史を有しており、時間の淘汰を経てなお投資家が信頼を寄せる金の優位性は単純な分析で否定できるものではありません。また上記分析は長期的視点にたったものですが、短期的視点から見れば(そもそも「有事=短期」)異なった結論が出る可能性もあります。それがまさに足元の金融不安を背景とする金買いかもしれません。ただ、時には「有事の金買い」のような常識を疑ってみるのも面白いものです。

さて冒頭のフライパンですが、最終的にはそれを使いこなせる「実需家」にめでたく引き取ってもらえることになりました。今回分析した各種商品価格もそうですが、確かに金融緩和の影響は無視できないものの、価格の基調を決めるのはあくまで実需であると考えるべきかも知れません。

コラム執筆:榎本 裕洋/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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