豊かな国土に恵まれ、G20の一員でもあるアルゼンチンは、高い文化水準から「南米のパリ」とも呼ばれてきましたが、2002年にかけて通貨危機が発生し、自国通貨ペソの大幅な切り下げの中で対外債務が肥大化、返済不能の状況に陥りました。この時、アルゼンチンはそれまでの自由主義的な立場を転換し、IMFや債権者との対立を深め、民間債権者に7割にも及ぶ一方的な債務削減を強行したため、国際的な信用が地に落ちる結果となってしまいました。また、二国間債務についても延滞を続け、「パリクラブ」と呼ばれる債権国団と条件面等での交渉がまとまらない状況が続いており、今日に至るまで国際金融市場から断絶した状態が続いています。

一方で、通貨切り下げにより企業は競争力を取り戻し、雇用拡大を通じて個人消費も回復に転じたことなどから、アルゼンチン経済は息を吹き返し、2003年以降の実質GDP成長率はリーマン・ショックによる減速を含めても平均8%程度と、高成長を続けています。また、アルゼンチンでは広大で肥沃な土地(パンパ)を活用した農牧業が盛んで、近年の中国など新興国の需要増加や穀物価格の上昇もあって、食料品・同加工品の輸出も好調です。とりわけ大豆は世界第3位の生産量を誇り、かつ国内での消費がほとんどないため、重要な外貨獲得手段となっているほか、35%の輸出税を通じて国家財政にも多大な貢献をしています。

アルゼンチンは天然資源も豊富で、リチウム、カリウム、銅などの鉱物資源に恵まれ、シェールガスでは世界第3位の埋蔵量と推定されています。もっとも、こうした資源を本格的に開発していく上では、鉄道などのインフラが不足しており、国際金融にアクセスできない現状では、インフラの開発も、資源の開発もなかなか進められないのが実情です。

アルゼンチンが国際金融市場に復帰するためには、デフォルト状態にあるパリクラブ債務の解決に向け、一刻も早くパリクラブ側と返済条件面で合意する必要があります。同債務額は延滞利息を含めても90億ドル程度と、十分に外貨準備(500億ドル弱)から支払える金額ですし、アルゼンチン側もそうした意向を示していますが、返済期間など一部の条件でまだパリクラブ側と折り合っていない模様です。

もっとも、こうした現状を言い換えると、パリクラブ問題が解決して、国際金融市場への復帰が果たされれば、資源権益やインフラ投資に外資が本格的に参入できるようになるということでもあります。2011年10月末に実施された大統領選挙(フェルナンデス大統領が再選)の前は、債務問題の条件交渉などセンシティブな話題は敬遠されていたようですが、選挙が終わった今、そろそろ解決に向けて動き出す、すなわち投資家にとってはまもなくチャンス到来、との期待が高まっています。一方で、アルゼンチンは政策・制度変更リスクが高い国で、7割の債務カットを強行した悪しき前例もあるため、投資家は相応のリスクを覚悟する必要があります。まさに、これから投資家の目利きの力が試されることになりそうです。

コラム執筆:安藤 裕康/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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