ミャンマーは大きな転換期を迎えています。これまでは、国内で少数民族や民主化勢力との対立を抱え、長期に渡って政治を支配してきた軍事政権に対してEUや米国の経済制裁が続く等、国際社会からは孤立した存在でした。こうした政治的な混乱によって経済発展も制限され、周辺のASEAN諸国が経済成長を遂げる中、取り残された状況が続いてきました。しかし、ここにきて、ASEANにおける有望な投資先として注目を集めつつあります。

きっかけは政治の変化です。2010年11月、複数政党参加による総選挙が実施され、その直後に民主化運動の指導者であるアウン・サン・スー・チー氏の自宅軟禁が解かれる等、欧米が求めるミャンマーの民主化が進展し始めました。更に、今年3月に発足したテイン・セイン政権は、経済特区の制定、外国投資法の改正、貿易・投資の許認可取得の円滑化等の投資環境の整備を進めており、経済成長にとって不可欠な外国からの資本受け入れに本腰を入れる姿勢を見せています。新政権発足から1年も経たないうちに、ミャンマーの政治・経済情勢は急速に変化している印象です。

そもそも、ミャンマーには外国からの投資を呼び込む上での有利な条件がいくつか揃っています。第1は、豊富で安価な労働力の存在です。人口は約6,000万人と隣国のタイに匹敵する規模があり、20歳以下の人口が全体の3分の1を占める若年層の多い人口構成です。賃金水準が周辺国に比べても割安である点も魅力のひとつです。第2は、多くの天然資源に恵まれている点です。天然ガスは3,000億?の確認埋蔵量があり、タイに輸出することで貴重な外貨獲得源になっています。他にも、銅や翡翠等の鉱物資源及び木材、コメ、豆類等の農林産物も豊富に存在します。第3は、インドシナ半島の西端、ASEAN・インド・中国南部へのアクセスが可能な要所に位置している点です。アンダマン海に面していることから、ミャンマーからはマラッカ海峡を通過せずに欧州やアフリカ方面に物資を輸送することができるのも大きなメリットです。

こうした強みを有しているにも関わらず、ミャンマーの一人当たりGDPは約700ドル(2010年、IMF予測)とASEAN域内で最も低い水準に留まっています。ミャンマー経済の約40%は未だに一次産業で構成されており、本格的な経済成長には製造業の育成及び雇用の創出が必要です。ここ数年、ミャンマーも他のアジア諸国と同様、縫製品の加工基地としての役割を担うようになりつつありますが、今後は、食品加工やエレクトロニクス分野等の組立産業といった軽工業を出発点に、国内の製造業を更に拡大・高度化することを目指すと考えられます。また、そのためには、深刻な電力不足への対応等、製造業が操業する上で不可欠なインフラ整備も大きな課題です。

ミャンマー経済の発展には多額の投資が必要であり、その大部分は海外に依存せざるを得ません。こうした事実が政治面での変化を後押しする一因になっているとも考えられます。日本政府は今年10月、ミャンマーの民主化の動きを評価し、ODAを再開する方針を表明しましたが、ミャンマーの民主化が順調に前進を続けた場合、日本企業の本格進出が見られる日も近いかもしれません。直接投資はもちろんのこと、ミャンマーには素材・部品等の周辺産業及び熟練工等の高度人材が不足していることから、技術移転やマネジメント層を含めた人材育成も日本が協力できる分野でしょう。

ミャンマーは2015年のASEAN経済統合への参加を目処に、政治・経済面の各種改革を実行に移していくと予想されます。また、2005年に移転した新首都・ネピドーに新空港が完成することでより一層の対外開放が期待されます。これまでは中国との結びつきが強かったものの、欧米の経済制裁が解除されれば様々な国との貿易や投資が一気に拡大する可能性があるため、今後のミャンマーを取り巻く情勢がますます注目されます。

コラム執筆:井上祐介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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