2000年末、3億6千万人だったインターネット利用者は、2011年3月末には地球人口の30%にあたる21億人になった。日米欧など先進国では人口の8割前後がインターネットを利用している。

だが、インターネットに繋がるのは人だけではない。ロイター・ブログにユリ・ミルナー氏(※1) のヤルタでのインターネット革命に関するプレゼンテーションが掲載されている。同氏は2009年にフェイスブックに投資して話題になった人物で、投資家にはご存知の方も多かろう。そのミルナー氏によると、インターネットに接続されているデバイス(機器)は、50億個。さらに、2020年までに、インターネット利用者が倍増するのに対して、インターネットに接続される機器は4倍の200億個になると同氏は考えているという。「Internet of Things(IOT)」、「モノのインターネット」の拡大である。

日本では、2009年9月に、総務省の「IPv6によるインターネットの利用高度化に関する研究会」で、「IPv6によるモノのインターネット社会ワーキンググループ」が設けられ、その検討結果が、今年8月の研究会の第三次中間報告案に盛り込まれている。このワーキンググループの表現を借りると、「モノのインターネット」とは、「狭義には電子タグ等のRFIDネットワークのみを指すこともあるが、ここではそれ以外に情報家電のネットワークやセンサーネットワーク等を含めたPC以外の機器が接続されたネットワーク全般を指す」とある。

センサーネットワークとは、温度、湿度、電流、電圧など様々なセンサーからの情報をネットワーク経由で収集・処理するものである。例えば、医療・福祉分野では、血圧・体温・心電など生体情報を取得するバイタルセンサーからネットワーク経由で得られる情報により、患者の状況を的確に把握し、在宅医療、遠隔医療に活かすことができる。また、オフィスの空調制御システムでは、複数の地点にセンサーを設置し、実際の温度や湿度の分布に沿ってシステム全体を最適制御することで、快適性を維持しつつ、省エネを進められる。人や周囲の状況だけでなく、人や車の位置情報とその移動状況をセンサーで把握し、オフィス・施設の空間プラニングや、都市交通システムに活かすこともできる。
「モノのインターネット」を可能にする要因は幾つかあるが、技術的側面から2点指摘したい。

一つは、インターネット上のアドレス管理が、IPv4(Internet Protocol version4)から、IPv6へと変わりつつある点で、管理可能なアドレス数が、IPv4の約43億個(2の32乗)から、IPv6では2128個(2の128乗すなわち、232の4乗)と、事実上無限大になる。

二つ目は、センサー・通信ユニットの微細化・省電力化とこれを稼働させる為のエネルギー・ハーベスティングないし環境発電と呼ばれる技術の進展である。この分野では、ドイツのEnOcean社が照明や空調の制御アプリケーションを中心に実用化で先行しているが、応用範囲の広い技術分野でもあり、今後の新規参入の拡大が予想されている。

さて、冒頭のミルナー氏の指摘はインターネットにおける情報創造の増大に及ぶ。人類が過去3万年間、即ち、人類最初の壁画から2003年までの期間に創造した情報の総量と同じ量の情報が、2010年にはわずか2日で創造されており、さらに、2020年には、同量の情報創造に必要な時間は1時間だという。フェイスブックやツィッターでは、参加者の急増だけでなく、参加者一人当りのコミュニケーション量も急速に増え、ネットの中で、爆発的な勢いで情報が増殖しているのである。もちろんネットユーザーとしての人間だけではなく、上述のセンサーネットワークの拡大も情報増殖の大きな要因であろう。

Web2.0を提唱した梅田氏の言う、ネットの「あちら側」の世界が急速に拡大している。上述の「モノのインターネット」関係者の言では、日本は、この世界で出遅れている、との認識である。一方で、環境発電を活かしたセンサーデバイス等もそれ自体は「こちら側」の世界でつくられるハードであり、要素技術の面では我が国にも見るべきものが多いとも聞く。問題は、この技術を活かす為には、ネットの「あちら側」の仕組みで付加価値を創造する術を知らねばならない、というところにある様だ。「あちら側」で勝負できる多くの日本企業が現れることを期待したい。

コラム執筆:
猪本 有紀/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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(※) http://www.reuters.com/article/2011/09/23/idUS248491907320110923