原子力発電に対する逆風や化石エネルギーの中長期的な価格高騰が懸念される中、太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーに大きな注目が集まっています。エネルギー政策を考える上では、必要なエネルギー量をなるべく低コストで確保しつつ、環境への負荷を極力抑えることが理想です。再生可能エネルギーの導入は、エネルギー源の多様化につながり、環境面でも温暖化ガスの排出削減に貢献しますが、現時点では発電コストが割高なことが問題です。しかし、今後は政策的な後押しも期待できるため、普及拡大で発電コストの低下が期待されます。

世界に目を向けると、日本以上に再生可能エネルギーの導入が急速に進展している印象です。REN21(※1)による"Renewables 2011 Global Status Report"によると、2010年の世界の再生可能エネルギーへの投資総額は前年比32%増の約2,110億ドルに達しました。世界の発電設備能力をみると、風力が198GW(前年比23%増)、太陽光が40GW(同74%増)等となっており、水力を除く再生可能エネルギーが世界の総発電能力に占める割合は約3%にまで高まっています。

とくに目立つのは新興国での動きです。昨年、風力発電の設備保有能力では中国がアメリカを抜いて世界最大となった他、バイオマス(※2)の発電能力ではブラジルがアメリカに次ぐ世界2位です。また、地熱発電ではフィリピン、インドネシア、メキシコが導入量の上位5カ国に入っています。再生可能エネルギーの導入は先進国にかぎった話ではないことが分かります。

再生可能エネルギーの分野で新興国の存在感が増しているのにはいくつかの理由があります。第1は、言うまでもなく、新興国において電力需要の拡大が見込まれる点です。電力不足を回避するためには電源の増強が不可欠であり、再生可能エネルギーもその場合の選択肢のひとつに加えられています。第2に、資源制約の問題です。化石エネルギーの自給率が限られる国が多い中、海外に資源を依存するのはリスクを伴う上、エネルギー資源の価格が高騰した場合は財政的に大きな負担となります。一方で、太陽光や風力発電はエネルギーの国内自給が高まるという大きなメリットがあります。第3に、環境対策としての有効性です。化石エネルギーの使用は多くの国で環境問題を引き起こす原因となっていることから、環境に優しい自然エネルギーが導入されていると考えられます。

更に、新興国企業は再生可能エネルギーを新たなビジネスチャンスとして捉えています。例えば、既に風力発電用のタービンの3割、太陽光発電パネルの6割以上が中国系企業によるものです。中国では、第12次5カ年規画(2011~2015年)において、七大戦略的新興産業を指定していますが、その中には「省エネ・環境保護」及び「新エネルギー」が含まれており、今後、こうした分野での産業育成に注力する方針です。

再生可能エネルギーについて、何らかの政策目標や支援策を導入している国は2005年には55カ国だったのに対し、現在は119カ国にまで拡大しており、風力発電は83カ国、太陽光発電は100カ国以上で既に導入されています。

一方で、国連によると、世界では未だに15億人が電力のない生活を送っており、一次エネルギーを薪などの従来型のバイオマスに依存している地域も多くあります。特に電力需要が限定的な遠隔地では、自然条件を活かした発電方法の利用が効率的な場合が多く、地域の電力需要を満たすことが目的であれば必ずしも大規模な投資を行い、発電設備を送電網につなげる必要もありません。今後、再生可能エネルギーの発電コストが低下すれば、こうした地域も含め、ますます市場が広がりそうです。

※1
REN21・・再生可能エネルギー国際会議を機に発足したネットワーク。国際機関、政府、企業団体、NGO等がそのメンバーとなっている。
※2
バイオマス・・再生可能な生物資源からなる有機資源(化石エネルギーを除く)。

コラム執筆:
井上祐介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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