天然ガスをとりまく環境が、大きく変化しています。天然ガスは熱量当たりの温室効果ガスの排出量が石油の4分の3、石炭の2分の1と低く、化石燃料の中では環境への影響面で優等生です。1997年の京都議定書以来、低炭素社会の実現に向けて期待が高い資源ですが、ここ数年、需給面の大きな変化によっても、注目度が増しています。

まず供給面の変化は、米国におけるシェールガス開発の進展です。技術進歩により、今まで開発が困難と思われていた、地中に薄く広く分布するシェールガスの経済的な開発が可能となったことから、米国の天然ガス生産量は、2006年以降急激に増加しています。2009年12月、石油メジャーのエクソンモービルは非在来型ガス生産大手のXTOの買収を発表し、米国におけるシェールガス時代の幕開けを世界に印象づけました。

従来型の天然ガスの可採年数は60年程度と言われています。しかし、米エネルギー庁(EIA)が2011年4月に発行したシェールガスに関するレポートによると、技術的に開発可能なシェールガス資源量は、調査対象となった米国及び世界の14地域(14地域にはあわせて32の国家と地域がかかわっている)だけで、従来型ガスの可採埋蔵量に匹敵する量が存在するとされています。また、非在来型ガスのCBM(コールベッドメタン)についても、中国や豪州、欧州などに相当量が存在すると見られています。

コスト的には在来型ガスの方に軍配がありますが、開発で先行する米国におけるシェールガスの生産コストは、安いところで百万Btuあたり4ドル程度まで下落しており、その差は縮小しています。非在来型ガスの開発がどの程度進むかは議論の余地がありますが、現状では資源の供給制約への不安は小さくなりつつあります。

需要面では、中国やインドなどの新興市場国における需要が大幅に増加しています。中国における天然ガスの消費は、都市化の進展や都市ガスの普及にともない、ここ10年間で4.5倍に拡大しました。さらに、2035年には2010年比で6倍近くへの増加が見込まれています。

また、一人当たりの天然ガス消費量が世界平均の10分の1以下であるインドでは、急ピッチでガス供給インフラ整備が進んでいます。同国では、2013年までにインド国内を東西南北につなぐ基幹のガスパイプライン網が完成する予定となっており、インフラ整備とともに大幅な需要の増大が見込まれています。

加えて、福島の事故を受けた原子力発電への世界的な影響です。今後の原子力発電の利用については各国で対応が異なっていますが、開発を推進する国であっても、計画に遅れが出る可能性が指摘されています。原子力発電の代替エネルギーとしては、風力、太陽光、地熱、小水力といった再生可能エネルギーの開発に拍車がかかると見られています。しかし、これらの開発には時間とコストがかかるため、不足分を早急に補うには、当面は化石燃料に頼らざるを得ないとの見方が一般的です。中でも天然ガスは、温室効果ガスの排出量抑制の面からも、大きな期待が寄せられています。

国際エネルギー機関(IEA)がスペシャルレポート内で想定するガスシナリオによると、一定の条件下ではありますが、2030年には天然ガスの需要が石炭の需要を上回る可能性が指摘されています。増大するエネルギー需要に応えるだけの十分な供給を確保し、価格高騰を押さえ、来るべき再生可能エネルギー社会に上手くバトンを渡せるかどうか。天然ガスは需要と供給の両面において、重要な転機を迎えているようです。

コラム執筆:村井美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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