サマリー

- 16/3期の大手行の当期利益は、ノンバンク業務やエネルギー関連等の損失計上で事前想定よりやや弱めだったが、17/3期の会社予想(目標)は、総じて想定通りの減益幅

- 株主還元は引き続き高水準。りそな(8308)が増配、それ以外は配当維持。配当利回りは3%台後半~4%と高い。更にMUFG(8306)、SMTH(8309)は自己株取得を継続(新規実施行はなし)

- これらの点から、銀行株は、キャピタルゲイン狙いの投資には向かないものの、高配当狙いでの、中長期スタンスでの投資を推奨。各行の17/3期の利鞘の前提はやや楽観的で、日銀の再利下げがリスクだが、有価証券の含み益が16/3末で8.4兆円にも上り、配当維持に必要な収益確保は十分可能と思われる

大手行の当期利益の推移

邦銀の16年3月期決算は、事前レポートの通り、利鞘の低下や与信費用の増加などが目立ち、全行平均で微減となった(図表1)。但し、大手行の業績は弊社予想よりやや弱く、平均で4%の減益となった。エネルギー関連の与信費用の計上については想定していたが、子会社ノンバンクの過払い返還請求に対する引当金計上がMUFGとSMFGでそれぞれ1,000億円前後の費用が発生したのは想定外だった。

17/3期通期の計画は総じて減益決算で、概ね弊社の想定通りとなった。特に、地銀の弱気姿勢が目立つ。詳細は今後の取材や決算説明会で確認するが、大手行のようにいざとなれば売却益で当期利益を作れる余地が少ないことで、国内の貸出利回りの低下や投信販売の見通しなどに保守的な前提を置いているとみられる。

個社別にみると、今期の見通しの考え方にはばらつきがある(図表2)。当期利益については、16/3期の減益幅が大きかったSMFGと、貸出拡大を見込むSMTHで増益、それ以外は減益計画となっている(同b行)。ただ、利鞘の縮小幅については、大半の銀行が前期と同様か、やや小さいと想定している点は楽観的に感じる(同 a行)。平均利鞘が1bp(100bp=1%)下落する毎に、銀行業界全体で約400億円、うち大手行で約200億円の貸出関連の利益が減少する(税引前利益に対し0.5%程度)。大きな影響ではないが、利下げが10bp単位で下落すれば、利益に対し5%前後のマイナス影響が出うるため、引き続き日銀の利下げの有無は要注目である。

尤も、銀行の当期利益は、金利リスクに対して、自然体で影響が軽減されているという「ナチュラル・ヘッジ」が効いている。利下げは利鞘にマイナスだが、保有する債券の価格が上昇し益出しの余地が拡大するためだ。既に、16/3月末時点の有価証券の含み益は大手行合計で8.4兆円と巨額に上ることから(同 c行)、これらを使って当期利益目標を達成できる可能性は高い。

大手行の資産負債の動き

貸出残高は、16/3月実績で平均3%程度の増加とまずまずだった。17/3期は、国内貸出についてはやや低い伸びが見込まれている。大企業はM&A資金等は活発だが、中小企業向け貸出の増加ペースはやや鈍化している。無担保消費者ローンは2桁増を計画する銀行も多い。半面住宅ローンは、これだけの低金利で,問い合わせは前年比数倍と報道されているにも関わらず、結局大手行では16/3期末の残高は前年同期比ほぼ横ばいで、今後も特に大手行ではさほど増加は見込まれていない。

16/3期末の海外貸出残高は、円高で目減りし、1~6%の伸びにとどまったが、為替影響を除くと、一桁台%後半の伸びと堅調だった。一方、17/3期はこれよりはやや低い増加率を見込む銀行が多い。調達力の制約や新興国のリスクなどから妥当な線であろう。

これに対し、預金は驚異的な伸びとなった。全国銀行協会によれば、地銀と大手行合算の16/3月末の預金は前年同期比で+4.0%の大幅増(うち大手行+5.5%)となった(図表3)。今回開示された個別銀行の決算によれば、これらの増加の主因は、法人預金、特に、生保や投資信託などの運用機関の預金増である。運用難から、ひとまず銀行預金に滞留するマネーが増えていることが如実に表れている。

一方、個人預金は、賃金の上昇(3月末で前年同期比1.4%)や、投資商品からのシフトで、全国銀行、大手行とも前年同期比1.2%の増加となった。投信残高は、時価下落の影響もあるが、資金流出も大きく、今年2月以降弱い動きが続いている(図表4)。市場環境次第ではあるが、預金が急減するシナリオは考えにくく、預貸ギャップ額(預金-貸出)の高止まりが更なる貸出競争を招く可能性がある。

なお、現在大手行では、日銀当座預金にマイナス金利が適用されている金額はほぼゼロとなっているが、更に預金が増え続ければ、一部の金額についてはマイナス金利が適用され始める可能性がある。その場合銀行は、企業などの大口預金者にコストを転嫁する可能性が高いだろう(但し、個人口座には転嫁しないと想定している)。

与信関連費用(貸倒引当金等)

16/3期の与信関係費用等(以下、グループノンバンクの過払い引当金を含む)は、1) 海外エネルギー関連(MUFG、SMFG)、2) ノンバンク業務(MUFG、SMFG、新生)、3) 国内個別要因(MUFGの製造業取引先向け債権)の3つの要素で弊社想定以上に拡大した。これらのうち、2) 3)については、17/3期に再び発生することはまずない。3)のエネルギー関連の引当金については対応が分かれており、MUFGなどではエネルギー関連与信の原油価格前提は「1バレル35ドル」であり、1バレル40ドルに戻れば、200億円の戻入益が発生する可能性もあるとしている。それ以外のメガバンクはMUFGほどの与信費用は計上していないため、市況次第では追加費用計上を迫られる可能性もある。

更に、新興国与信など、エネルギー関連以外の海外融資に貸倒引当金が生じる可能性はある。しかし、それらを加味しても今期の与信費用の前提は各行ともに保守的で、17/3期利益目標のための大きな障害になるとは考えにくい。

株主還元

17/3期は、減益決算にもかからず、りそなが2円増配でそれ以外の銀行でも前期の配当を維持すると予想している。このため配当利回りは、軒並み3%台後半から4%台となっている(前掲図表2)。更に、この厳しい環境の中、MUFGとSMTHという常連2グループが自己株式取得枠の設定を発表し、今後も継続的に実施することへの意思を見せた。今回新規に自社株式取得を決めた大手銀行はなかったが、SMFGは説明会で、「規制変更が今年度中に明確になってから」と将来的には自社株式取得に前向きな姿勢を見せた。

図表5の通り、決算後も銀行業界株の配当利回りは高止まりしている。過去の推移をみても、現在の配当利回りは、リーマンショック後の財務不安がくすぶり株価も低迷していた時期以来の高い水準となっている。

銀行セクターへの投資スタンス及びリスク

銀行セクター、特に大手行は、引き続き、配当利回り狙いの長期投資としては魅力的だと考える。今期計画達成の確度は高く、日銀の再利下げはリスクだが、再利下げの場合、利鞘が下がっても債券含み益が増えるという形で利益の「ナチュラル・ヘッジ」が効いている。

半面、トップラインの収益には総じて勢いがないことから、銀行セクターがTOPIXをアウトパフォームするのは当面難しいだろう。厳しい環境を打開するためには、大規模な買収等が有効かもしれないが、それについては今年末までに決まる規制変更がリスクである (リスク資産算出方法の厳格化-3月29日付の関連レポート「金融規制の方針転換発表」をご参照) 。これらのリスクについては、例えばSMTH(8309)は、手数料と海外業務が中心で、利下げリスクに相対的に強く、収益の分散が図れており、MUFG(8306)は、今後も自社株式取得に対するコミットメントが高く、かつ継続するだけの財務的な余裕度の高い点が強みとなっている。