4月25日、常陽銀行(8333)と足利ホールディングス(7167)(以下HD)が統合の最終合意に達し、グループ名を「めぶきフィナンシャルグループ(FG)」とすると発表した。

これを含め、近時、日本の地域銀行(第一、第二地銀の総称、以下"地銀")では、他の業界でも見られない速度で再編が行われている(図表1)。

このような地銀再編の動きは今後さらに加速するだろう。2013年末以降、金融庁等に5年、10年先を見据えた戦略立案を促されていた地銀だが、その後、日銀のマイナス金利導入による利鞘の低下や景況感の悪化、昨年末以降強化案が発表されている資本規制などでタイムリミットが一層早まっている。

しかし、邦銀の場合、統合しただけでは企業価値への効果はあまり大きくない。例えば、2000年代初頭に大規模な再編が行われた大手行の事例をみても、3メガバンクグループへの統合後、経費こそ削減できたものの、預貸率は改善せず、最大の問題である利鞘もほぼ低下の一途を辿ることとなった。

そんな大手行を変革させたのは、証券、海外、住宅ローン以外の個人融資といった業務の多様化だった。大手行は単体の利益が伸び悩む中、これらの業務を拡大することで連結利益を拡大し(図表2)、地銀との差別化要因となった(図表3)。

これらのことから、我々は、難しい環境の下で地銀が企業価値を向上させるには、再編だけでなく、何らかの事業の改革が必要だと考えている。そして、事業改革を断行できる銀行の条件としては、1)資本等の経営資源を有し、2)改革の必要性が高く、3)経営陣の新しい挑戦への意欲が高いことが重要であると考え、これらを満たす地銀をピックアップした。

経営改革は時間もかかるため、ピンポイントでその有無を予想することは難しいが、現在地銀株は、配当利回りもまずまずで、高資本と低ROEを考慮すると自己株取得の可能性もあることから、株価に対するダウンサイドも比較的低いとみられる。

1.地銀の事業環境:コアの収益を伸ばすには最悪の経営環境 地銀が追い詰められている背景には3つの要素がある。第一に、以前から指摘されていた人口減少とそれに伴う地方の経済規模の縮小である。人口は15-20年頃には今より最大6%程度下落する地方もあると予想されている。図表4では、マイナス金利による利鞘低下が今後2年程度続いた場合の経費率と人口減少度合いの影響度を示している。右下に位置する銀行は、経費率が90%程度まで上昇する可能性があり、かつ、人口減少度合いが大きいと予想されているため、収益環境は特に厳しい。

なお、現在、日銀が銀行に対する、「貸出支援基金」にマイナス金利を導入するとの思惑が高まっているが、仮にこれが実現しても、その分貸出金利が低下してしまうことから、銀行への恩恵は極めて限定的となるだろう。

加えて近年は、地方企業の需要不足や後継者不足で、企業の休・廃業率の高さが懸念となっている。例えば昨年は、景気は比較的堅調だったにも関わらず、地方圏では企業の休・廃業や解散の件数が前年比二桁増となった(図表5)。今年度は、円高傾向や景気後退で更なる悪化も懸念される。

そこに追い打ちをかけたのがマイナス金利の導入である。地銀のコア収益(=貸出と有価証券利息プラス手数料で計算)は、15bp(1bp=0.01%)金利が下落すると、一行当り平均で、数十億円ずつしか出なくなってしまう(図表6)。これは現状の2分の1以下の水準である。あと1、2年マイナス金利が続いた場合、コア収益で経費が賄えない状態が定常化する可能性がある。

このような金利環境を受け、今期開始中期経営計画をスタートした地銀のほぼ全行で、ROEは「現状以上」と言及するにとどまっている。当期利益については、増やす計画の銀行が多いものの、伸び率は年率1.5~2.5%と低い水準に留まっている銀行が多い。しかも、マイナス金利の影響を精査する前に計画を策定してしまった銀行も多いとみられるため、今後下方修正を迫られる可能性もあるだろう。

また、マイナス金利で、地方の中小企業の景況感が急速に悪化してしまったことも、想定外の逆風である。図表7の通り、地域別景況感DIは、北海道、中部、九州沖縄等の地方での悪化が目立つ。地方企業に対する設備資金貸出も減退する可能性が高い。

第三に規制の問題である。既報の通り(16.3.29付レポート参照)、資本規制は、国際基準行を中心に、高リスク貸出や株式などの見方が厳しくなっており、今後更に、国債の信用リスクに対する見方も厳格化される可能性がある。

尤も、これらの悪い環境については、相当程度市場には織り込まれている。逆に、今後これらの環境を打破するための施策が出てくれば、株価反転材料となる可能性が高いだろう。

2. 前例からみる再編の効果:他の方策を取って初めて効果が出る では、このような状況を打破するのに、銀行間の再編はどの程度の効果があるのか。2000年代初頭に大手行(都市銀行)が再編した時には、経費は圧縮できたものの、預貸率は、むしろ再編を殆ど行わなかった地銀よりも低下してしまい、これが利鞘の低下に繋がった(図表8~10)。

日本の地銀にとっても、経費については再編で改善される可能性はあるが、より深刻な運用難という問題は、再編だけで抜本的に改善されるものではない。業務の多様化など、より抜本的な改革に取り組む必要があるだろう。

3. 再編プラス革新的な一手が求められる:資本力や近年の実績にみる高ポテンシャルの銀行は... では、どのような銀行が事業モデルを改革できるのだろうか。それには、新しい業務を行うための資源(資本、人材、経営ノウハウ) と、経営陣の遂行への意思が必要であると考えられる。これらは定性的であり測定しにくいが、以下では、自己資本比率と近時の新戦略の取り組み実績から推定を試みる。

1)資本力の高さ 資本規制の厳格化もあるが、一部の地銀については、資本が極めて潤沢である。これらの銀行は、今後より大胆なリスクが取りやすいと考えられる。例えば、スタートアップ企業など従来貸出が難しかった先に対して投融資を行う余力もあり、また、現在討議中の銀行法改正後には、IT企業等異業種の買収も行うこともできるだろう。 なお、地域によっては、地震や噴火等災害時に備えて資本を厚めにしており、資本を使うのは難しい銀行もある。)

2)事業環境のひっ迫感 預貸率が低い銀行は、預金の割に貸出機会が少ないものと推測されることから、その分、業容の拡大に追い込まれる可能性が高いと思われる。例えば図表11では、資本は潤沢だが、預貸率が低く、貸出機会に恵まれない銀行(主に図の右下部分)を記載している。

3)革新的なことに挑戦する経営陣のマインドセット しかし、投下できる資源に恵まれ、事業環境が厳しくても、新しいことに取り組む積極性がない限り、大きな進化を遂げるのは難しい。このような銀行の"気概"の面を外部から判断するのは難しいが、これまでに、小さくても何か新しい分野に参入した実績があった銀行は、より大きな挑戦に対しても前向きである可能性が高いと考えられるだろう。

例えば、証券子会社を有する銀行、運用子会社を設立した銀行などは、ある程度それに該当するだろう(図表12)。

これ以外にも、営業ノルマを廃止し全員を総合職とした北國銀行、企業の審査を将来性重視に変える「事業性評価貸出」のため独自の評価システムを開発した広島銀行、AI(人工知能)なども活用し個人向け融資を活発化する静岡銀行等の大手地銀なども注目される。

上記のことから、資本比率が地銀の中で上位にあり、過去1,2年程度での新規事業の取り組み度合いが高いか、または、事業環境の切迫度が高い先を、配当利回りが2%以上の銀行を中心に抽出したのが図表13である。

これらの銀行については、少なくとも長期的には、何等かの抜本的な施策を取る可能性が高いと考えられる。これらのどの銀行が、どのような形で施策を取りうるのか決め打ちしにくいが、いずれの銀行も、資本比率が高い上、株価純資産倍率(PBR)が低いため、自社株買いの余地も大きいことから、株価の下落リスクも限定されよう。