伊藤清京大名誉教授が初代ガウス賞を受賞することになりました。ガウス賞とは初めて聞いた名前なのですが、数学のノーベル賞と云われるフィールズ賞を制定する国際数学連合が、社会の発展に役立った研究業績を残した数学者に贈る4年に一度の賞で、今回が第1回目とのことです。大変素晴らしいことで、日本人として誇りに思います。
伊藤教授は「確率微分方程式」なるものを確立し、現代金融工学のデリバティブの基礎を築いた方です。思い起こせば20年ほど前、アメリカNYウォール街の投資銀行に就職した私は、元来の数学好きでもあったので、オプションを始めとするデリバティブなるものに興味を持ちました。自然の成り行きか、金融の最先端を行くデリバティブ関連のデスクに配属された私は、右も左も英語だらけの中で、数式を頼りに勉強をしました。会社の用意したテキスト、ウォール街の本屋で買い漁った様々な教科書。今考えると当時のフィールズ賞候補や後にノーベル賞を取ったような人達が会社の中にはゴロゴロ居て、そういう人達からも色々と教わりました。
しかし数学好きとはいえ理系に進まなかった私、20歳を過ぎるまで本州すら出たことのなかった私にとっては、「孤軍奮闘」と云うイメージがあったのですが、そんな中、どの教科書にも出てくる「伊藤のレンマ(定理)」は、「ITO」教授に対する興味を惹起するとともに、精神的にとてもとても心強いエールであり、援軍でした。「デリバティブの基礎を作ったのは日本人なんだ」
−その伊藤教授が、大変名誉ある賞を受賞されました。且つ、「伊藤のレンマ」に基づいて理論展開しノーベル賞を受賞したマートン教授やショールズ教授からも、伊藤教授の研究業績に対する賞賛の声が寄せられているようです。オプション理論の父、今は亡きブラック教授も、天国から喜ばれていることでしょう。久し振りによく知る名前のオンパレードの紙面を読んで、懐かしい気持ちに包まれました。嘗ての同僚に「こいつはガウスの再来ではないか」と思った天才が居るのですが、ガウス賞という名前も、数学好きにとっては味のある名前です。偉大な先輩に負けないように、我が国も金融に関する学術分野や応用分野で活躍していくことを願いたいと思います。