週末に、午後に東京を出て深夜には帰京するというタイトなスケジュールで、京都に行ってきました。知人が主催した或るイベントに参加する為です。その知人には不義理を続けていたので、無理をして参じたのです。

京都には好きな場所がひとつあります。或る有名なお寺の塔頭なのですが、一般にあまり知られていなくて空いています。しかし私はその静寂さと「侘び」の境地が大好きで、しばしば訪ねます。今回もイベントに遅刻しながら、10分間だけ寄りました。京都は秋の紅葉が有名ですが、新緑の楓(かえで)もまた素晴らしいものです。柔らかい、赤ん坊の手のような優しさを持った楓の葉が重なり合って、得も云われぬ落ち着いた空間を作っています。

夕暮れ時であった所為もありますが、楓の緑が空気に溶け出したようで、庭の風景が、恰も薄い緑の絵の具で上塗りしたように霞み掛かっています。借景を基本とした造りの書院の中にまで、柔らかくて、爽やかで、緑掛かった優しい空気が満ちていました。お庭の外は竹林で、夕暮れの風の中でカツンカツンと、まるで古からの人が私の周りを懐かしそうに飛び回っているような音をさせて、軽くしなって揺れていました。たった10分間ですが、気持ちがとても洗われました。空気の色を感じる時は、いつも素敵ですね。

追伸:この塔頭が何処であるかは、お問い合わせを頂いてもお答えしませんので、予め御了承下さい。