今日はつぶやきの常ネタ、鮨です。私は鮨が大好物ですが、昨年末、こよなく愛していた鮨屋が突然店仕舞いして以来、新しい常店(ジョウミセ−常宿の店版で、私が勝手に作った言葉です)を探して放浪してきました。鮨はお客さんの好みに応じて握り分けることが可能なので、行き込んだ店には多大なアドバンテージがあります。逆に常店を失うと、自分なりの美味しい環境を再構築することは大変です。絶対水準が美味しく、かつ自分にとっても美味しくならなければいけないからです。しかし昨晩行った鮨屋は、久し振りに常店になる可能性を感じさせてくれました。

店は前にも何度も行ったことがあります。昨晩は私にとってとても大切な人であるHさんに感謝の意を表す為のディナーでした。Hさんより一足先に店に着いた私は、店のオヤジと通常の会話をしていました。Hさんがすぐに到着し、Hさんはお茶を頼みました。チャキチャキの江戸っ子であるオヤジは、「酒は要らないんですかい」とキツイ目でHさんを見ました。「要りません。今日はお鮨をイッパイ頂きたい。」「(お酒飲まないのに)つまみはどうしますか。」「皆さんと同じにして下さい。」・・年齢も同じくらいの頑固オヤジ同士のやりとりの緊張感に、私はちょっと嫌な気がしました。場の雰囲気を取り持つような話にすぐ振って、会食を始めました。しかしHさんの言葉尻に、前にも店に来たことを匂わせるものがあり、それが妙に引っ掛かっていました。

それから1時間半ほど経ったでしょうか、宴もたけなわ、私は思いきってHさんに尋ねてみました。「こちらへは前にいらっしゃったことはありますよね?」Hさん曰く、「昨日来ました。」「えっ?!」Hさんは分かりにくい場所にある店の在処を、昨晩探しに来たのでした。しかし見つからず店に電話を掛け、店の人に迎えに来て貰ったので、そのまま鮨を食べていったのでした。
「昨日はお酒を飲まれたのですね?」「はい、イッパイ頂いたので、今日は鮨に専念しようと思いました。ここは本当に美味しいですね。」するとオヤジが「そこまで種明かしするなら仕方ない」と言って、やおら真っ白な料理服の胸元から、小さな懐紙の包みを出しました。「昨日一万円余計に頂いています。あとで気付きました。これを返さないと。」Hさんは「いや、是非受け取って下さい。」会の初めの緊張感とは全く違う、得も言われぬ粋な空気がそこにはありました。・・そして私の胸がドキンと来ました。鮨屋で久し振りに感じた、胸の鼓動です。これは新しいお付き合いの始まりかも知れません。

あばたもえくぼ、それまで気になっていたことが、どんどん気にならなくなり、逆にいい所が見えてきます。鮨屋との恋、とでも言いましょうか。昨晩は、久し振りに清々しい、いい味のある晩でした。