MWはとてもキビシイ人でしたが、それは悪い意味ではなく、会社にとって必要な厳しさだったと思います。もし貴方がジャンボジェット機に乗っていたら、機長には厳しい人であって欲しいと思うでしょう。信頼に足る機長が、飛行中に操縦席を見たいと言う乗客を許しますか?ルールを守らずに騒ぐ乗客を放っておきますか?乗客の乗り心地を気にして、危険回避のためにすべき急旋回を躊躇しますか?多くの人の運命を左右するキャプテンは、常に冷静で厳しく、時に冷徹と思われる行動も取らなければならないことがある筈です。MWはそんな人でした。世界の資本市場が信じられないスピードで拡大し変貌していく中で、ウォール街の大手投資銀行には、まさに彼のようなキャプテンが必要だったのです。

彼とは二度、「キャリア」について真剣に話したことがあります。一回目は私のキャリアについて、二回目は彼のキャリアについてでした。一回目の時、私はMWに聞きました。「貴方はどうしてこの会社で働いているのですか?」後日彼は、今迄で最も妙な、不思議なミーティングであったと周囲に語ったそうですが、大笑いした後に不敵な微笑を湛えてこう答えました。「自分よりも優秀な人間が、この会社には常にいるからだよ。それがとてもいい刺激になるんだ。」会社の中に彼ほど優秀な人材は他にいないと考えていた私には、その回答は意外であると共に新鮮で、それからの私の仕事観に大きな影響を与えました。

いずれ書くことがあると思いますが、トレーディング界のスーパースターであり、私にとっての永遠のヒーローであるJMも、とにかく自分より優秀な人間を雇うように努力しろと、かつて言ってました。ウォール街の大立者は、とても向上心の高い、真面目な人達だったのです。