私は土地勘はいい方で、道に迷うことは滅多にありません。昼間に限らず夜であっても、大体東西南北を言い当てられます。小学校3年生の時だったと思いますが、唯々東へ向かって歩こうという企画をして近所の友達2人と出掛けてひたすら歩き、遂にその2人が『もう帰れない。絶対道に迷った。』と泣いたり怒ったりしたので仕方なしに180度方向転換をし、今度は西に向かってひたすら歩いて無事帰宅したこともあります。その時は、家の近くに戻ってきた時はすっかり日も暮れかけており、近所の大人が大勢で、家よりちょっと東側に寄った辺りで、私たちのことを大声で呼んで探していたのを憶えています。『東に行こう』というセリフを聞いた証言があってそういうことになったのだと思いますが、実際には私たちは『ちょっと東側』ではなく、歩いて3時間ぐらいの所まで東方に行っていたのです。まぁそんな具合で、方向感覚には小さい頃から自信があります。
海外に行ってもこのジャイロは健全なのですが、どういう訳か鬼門が二つだけあります。一つは東京の広尾の辺りで、それぞれの地域の位置関係が全く馴染みません。流石に経験がありますから、頭で考えると、『こっちから行くとここに出る』と分かるのですが、感覚的には不可解千万で、あの辺りだけは私にとっては青木ヶ原の樹海のようなもので、ジャイロコンパスがくるくる勝手に回転してしまい、方向音痴になってしまうのです。
もう一つの鬼門が京都駅です。京都の街中は全然問題ないのですが、毎回々々、京都駅からいざ帰ろうと東京行きの新幹線ホームで待っていると、予想していたのとは反対方向から列車が入ってくるので肝を抜かれます。これは徹底していて、未だ嘗て例外がありません。ホームで待ちながら、向かいのホーム(大阪方面行き)に入ってくる列車をボンヤリと眺めていると、いよいよ東京行きが到着する旨のアナウンスが入ります。頭で考えれば当然分かることですが、向かいのホームに来る列車とは逆向きに入ってくる筈です。ところが常に私は、実際の向きとは逆向き(東から西に向かって走る向き)を期待し、その期待を裏切っていきなり目の前に新幹線の顔が登場するので、毎回ドキッとするのです。これはタチの悪い病気で、このまま決して治る気がしません。
人の脳は、斯くも不思議なものですが、私自身に関しては何故そうなのかを、いずれは私なりに解明したいと思っています。