今ロンドンに居ますが当地のニュースによると、UKの1時間当たり生産性は仏・独に比べて20%、アメリカに比べるとなんと40%も低いとの調査結果が、政府機関から出されました。これは驚きです。産業革命発祥の地にとって、これは不本意なことでしょう。理由は、UKの労働時間が長いこと、労働者当たりの資本投下が低く、その結果労働者技術が劣ること、更にアメリカとの差の半分は、企業組織のあり方や企業の技術利用の水準の差から来ているとのことです。要は簡単に言えば、UKは遅れている訳です。ところが国の様子を見ると貧しそうではありません。物価は恐ろしく高く、1ポンドは200円ですが、100円換算にして丁度感覚が合う程です。購買力平価の議論から言うと、ポンドはもっと売られそうですが、ポンドは昔からこんな感じで高止まりしています。謎解きは、恐らく事実上の購買力が高いのでしょう。世界の大富豪の半分以上がロンドンに住んでいると言われます。アラブやロシアの大富豪は、ほとんどロンドン住まいでしょうか。トクな税制などによって、これらの資本を惹き付けているのでしょう。資本を取り込むということではスイスも似ていますが、スイスの場合は秘匿預金が主な手段ですから、必ずしもお金の主人は移り住んできません。従って、国内で消費される訳ではなく、替わりにスイスの銀行に極めて安価な資本を提供し、スイスの金融ビジネスを支えています。UKの場合はお金の主人の「人」が移り住みたくなるような税制の作り方ですから、実際に国内で消費が起きます。まぁ謂わば、UKの国としてのビジネスモデルでしょう。国によってそれぞれのモデルがあります。さしずめ日本の場合は(FDIが1%ですから)鎖国でしょうか。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、その後代表執行役会長。2025年4月より会長(現任)。東京証券取引所の社外取締役を5年間務め、政府のガバナンス改革会議等に参加し、日本の資本市場の改善・改革に積極的に取り組んで来た。ヒューマン・ライツ・ウォッチの副会長を務め、現在は米国マスターカード・インコーポレイテッドの社外取締役。東京大学法学部卒業。