先日、或る館を訪れる機会がありました。広辞苑によると、館の説明の一つに「貴人や豪族の宿所または邸宅」とあります。「弘法は筆を択(えら)ばず」とか、「馬子にも衣装」などと云いますが、逆に道具や装飾品は人を択びます。いい筆は、名人に使われなければ、その真価を発揮できないでしょう。では館はどうでしょうか?かつて戦国の時代には、戦いに勝った者が、新たな主として入城することは屡々あったことでしょう。
比較的最近では、江戸城の明け渡しなどもその部類に入ります。このような時、城や館は、どのような表情を持ったのでしょうか?館には、感情があるでしょうか?先日訪れた館は、今は一般のサービスに供されています。そして私は、本来であればその館に住んでいたであろう人と一緒でした。館とその人の間に、懐かしさや恥じらいに似た微妙な空気が流れているように感じましたが、それは考えすぎでしょうか。