先日、或る館を訪れる機会がありました。広辞苑によると、館の説明の一つに「貴人や豪族の宿所または邸宅」とあります。「弘法は筆を択(えら)ばず」とか、「馬子にも衣装」などと云いますが、逆に道具や装飾品は人を択びます。いい筆は、名人に使われなければ、その真価を発揮できないでしょう。では館はどうでしょうか?かつて戦国の時代には、戦いに勝った者が、新たな主として入城することは屡々あったことでしょう。
比較的最近では、江戸城の明け渡しなどもその部類に入ります。このような時、城や館は、どのような表情を持ったのでしょうか?館には、感情があるでしょうか?先日訪れた館は、今は一般のサービスに供されています。そして私は、本来であればその館に住んでいたであろう人と一緒でした。館とその人の間に、懐かしさや恥じらいに似た微妙な空気が流れているように感じましたが、それは考えすぎでしょうか。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、その後代表執行役会長。2025年4月より会長(現任)。東京証券取引所の社外取締役を5年間務め、政府のガバナンス改革会議等に参加し、日本の資本市場の改善・改革に積極的に取り組んで来た。ヒューマン・ライツ・ウォッチの副会長を務め、現在は米国マスターカード・インコーポレイテッドの社外取締役。東京大学法学部卒業。