マーケットの仕組みを誰よりも深く理解し、そしてマーケットの可能性を誰よりも強く信じたKさんが、我が国の資本市場の要である某所を定年のため去られます。
資本市場の父アダム・スミスは、マーケットの要件として、「十分な需要と供給」と「完全な情報」を挙げました。「十分な需要と供給」とは、即ち取引される株式の流動性が、高く維持されることが重要だということです。「完全な情報」とは、即ちマーケットの参加者にとって、情報に偏りがなく、全ての参加者が等しく情報に接していることが重要だということです。
この流動性と情報というテーマは、彼の時代から現代まで、更には未来まで、マーケットにとって最も重要な問題であり続けるでしょう。これらの問題は、理屈は簡単なようで、実際には極めて微妙なニュアンスを含んでおり、流動性が上がると思ってやったことが逆に流動性を下げてしまったり、特に情報に関しては、どのような情報のコントロールがより「完全情報」に近づくかという判断は難しく、マーケットに対する極めて深い理解が必要となります。そして従って、仮に判断が正しくても多くの人には理解されない場合もあるので、その判断を貫く強い意志が必要です。それは、マーケットの可能性を強く信じなければ出来ないことでしょう。
単元株の導入は、我が国の株式市場の流動性の上昇に大きく寄与しています。多様な投資家層の参加も可能にしています。手口の非公開化は、より公平な情報の流通に貢献すると共に取引の匿名性が高まり、その結果、この一年間の売買高の急増に大きく寄与したことでしょう。マーケットをこよなく愛したKさんだからこそ、このようなことが実現できたのだと思います。Kさんは尊敬する大先輩です。Kさんは、金融人の一つのあり方を私に教えてくれました。私もKさんのようにマーケットを理解し、その可能性を信じ、そして何よりマーケットを愛して大切にしていきたいと思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。