好奇心の重要性は何度も何度もつぶやきで書いてきました。昨日編集長が書いたように、優秀なトレーダーにとって、好奇心は何よりも重要な資質だと私も思います。かつてソロスのナンバー2だったR氏は、トレーダー、金融人、ビジネスマン、そして人として尊敬する、私にとって大切な友人です。
或る時彼は東京に来て、スーパーなどの店先に並ぶりんごの素晴らしさに目を惹かれました。虫食いもなく、粒も揃った、まるで工業製品のようなリンゴたち。彼の常識にあるリンゴは、もっとバラバラの出来で、所々傷みもあるものでしたから、元来の物好きの心に火がつきました。彼はいきなり旅程を変えて青森に飛び、自らりんご園に赴き、その秘密を探りました。精巧な噴霧器と優秀な管理システムを知った彼は、その旅のうちにそのシステム一式を購入し、南アにある自分のぶどう園に持ち帰って設置しました。その結果畑当たりの葡萄酒の生産量が増えたと、彼は得意気に自慢するのでした。その話をする時の彼のニヤッと笑う表情は、マーケットの動向を見抜いて大儲けをした時と全く同じ表情でした。恐るべし好奇心。しかしこういった現場に即した好奇心と分析と行動が、人より利する為の大きな要素なのだと思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
-
ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。