人は様々な壁を無意識のうちに立てています。などと言うと養老孟司さんの本のようですが、ちょっと違う話です(しかしその本はまだ読んだことがないので、もしかしたら重なっているかも知れません)。
高橋尚子さんが女子マラソンで2時間20分を切ると、忽ち他の選手もその壁を超えられるようになりました。スピードスケートの清水宏保さんは、「限界は自分の脳が作る」と言っており、まずイメージの世界で記録を破らないと、仮に体の能力は記録を破れるレベルに出来ていても、記録の壁は超えられないと言っています。どこかでこのような壁を我々は脳の中に作っているのでしょう。ところでこの壁は、スポーツの記録だけではない気がします。倫理というか、「起きてはいけないこと」「起こしてはいけないこと」「あり得ないこと」等についても、人は壁を自ら設定しているのではないでしょうか。凶悪犯罪の報道が、これらの壁を壊すきっかけとなっていないか心配です。メディアの在り方について、慎重に見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。