私は常々国家金融、政府金融は小さくすべきだと言ってきました。何故そう思うか、アメリカを例に考えてみましょう。
もしFEDが連邦銀行預金を個人から受け入れます、と発表したら、たとえアメリカであれ、かなりの額が株式市場から逃げ出し、「取り敢えずある程度は分けておこう」ということで連邦預金にお金が流れるでしょう。株を持っていれば、もし経営者がバカなことなどすればすぐに文句を言って牽制を与えるお金が、一旦連邦預金に入る、とそれっきり何も考えなくなるでしょう。資本主義経済の最大の媒体であるお金が、国家金融という枠に入ったとたんに、経済合理的な働きをしなくなってしまうのです。
今の日本の金融の最大の問題はここにあります。1400兆円と言われる個人金融資産のうち1000兆円に近い部分が、政府の国民に対する直接債務であったり、連帯保証債務であったりします。その部分のお金が、本来の経済メディアとしての役割を止めて、無欲になり、寝てしまいます。この部分を直さなければ、どんな対策をしても、日本の金融や市場、ひいては経済の根本的な再構築はできないと考えています。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、その後代表執行役会長。2025年4月より会長(現任)。東京証券取引所の社外取締役を5年間務め、政府のガバナンス改革会議等に参加し、日本の資本市場の改善・改革に積極的に取り組んで来た。ヒューマン・ライツ・ウォッチの副会長を務め、現在は米国マスターカード・インコーポレイテッドの社外取締役。東京大学法学部卒業。