個人の倫理と、組織の倫理の間に大きな隔たりを感じることが多くあります。相手が民間企業でも、官庁でも、担当の人と交渉などをしていると(担当者は必ずしも現場の人でなく、責任者である場合も多いのですが)、「私個人的には同感なのですが、社としては云々」といったことを聞くことがしばしばあります。私はこのフレーズが大嫌いです。自分が納得できないことなら、まず「社」に対して主張して納得できるまで議論すべきです。もし結局「社」が考えを変えない場合は、「社」にいる間は「社」の構成員としてその考えに従うべきで、その時は「私個人的には何々ですが・・・」という言い訳がましい枕詞はつけないべきでしょう。
しかし最近更に思うことがあります。それは最終的には、個人の倫理の方が組織の倫理よりも優先せらるべきではないかということです。企業の不祥事も、国家的な暴走も、最後に止められるのは個人の倫理観だと思います。たかが個人、されど個人。本当に大事なことほど、判断の最後の拠り所は個人の倫理ではないでしょうか。我が国に於いては、昔から、組織の倫理が優先する傾向があるように思います。これは真剣に直していくべきだと思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。