将棋の羽生善治さんが出版された「挑戦する勇気」という本を読みました。元々小学生向けに行われた講演の内容などをまとめたものなので、文章も易しく、分量的にも小さな本です。しかし勝負師として、若くして極端な偉業を為し遂げてきた羽生さんの言葉や考えは、真に深い洞察と含蓄に富んでいます。ビジネスに関しても有益な考え方が多く含まれているのですが、敢えてビジネスとはもっとも関係なさそうなもので印象的だったことを一つ御案内します。羽生さんのことですから当然何百局という試合の内容を覚えている訳ですが、私にとってはそれはもう奇跡としか思えません。
しかし羽生さんは将棋にも音楽と同じようなサイクルというかリズムがあり、この手の次はこの手ということが自然と見当がつくので覚えられると言うのです。リズムの外れた音楽を覚えるのが難しいように、リズムの崩れた試合はやはり覚えにくいそうです。なるほど。そう言われてみると私でも多くの音楽曲を覚えていますし、歌詞だけでなくそれぞれの楽器の演奏の順番なども覚えていたりします。イントロゲームでは、最初の一秒聴いただけでもそのあとの曲が全て蘇ってくるように、羽生さんには最初の一手を見ただけで、その試合全てが読み通せるのでしょう。しかしこれはビジネスとは無関係かと思っていましたが、よく考えてみると一脈通じるかも知れません。リズムが無ければいいビジネスにはなりません。我々もいいリズム、サイクルを作り出すようにしていきたいと思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。