期待というものは極めて取り扱い注意の代物です。特に金融市場の中に於いては、クレディビリティと並んでもっとも重大な話題の一つです。クレディビリティーとは切っても切れない関係にあるとも言えるでしょう。
米国に於けるかつてのルービン財務長官やグリーンスパン連銀議長は、市場の期待を巧くコントロールする名手でした。必要以上の期待を醸成しない、間違った期待は穏やかに下げていく、何かいいニュースがある時は見事に期待を裏切って派手に突然発表する。常に上手に市場と付き合って、効率よく市場を誘導していました。我が国の現改造内閣に対して、この点につきちょっと不安を覚えます。我が国の問題は大きな大きな問題です。迅速に処理しなければコストがドンドン膨れるのは言うまでもないことですが、一方で一ヶ月で解法を見つけられる類のものではありませんし、市場もそれを期待していないでしょう。少なくとも期待していなかったでしょう。「すぐに答えを出す」と言うと、市場は期待します。しかし言われた通りのタイミングで答えが出ないと市場の期待は裏切られ、市場はさらに悪い方向に動きます。そしてクレディビリティも失い、今後期待をコントロールすることが難しくなります。焦らず弛まず、金融市場との付き合いはクレディビリティを維持して期待をコントロールすることが何よりも肝要です。その点について、気を付けて下さいね!
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。