皆さん御存知のように日本の株価は低迷しています。TOPIXで見ると今の水準は1984年の水準と一緒です。日本の株の配当はあまり高くないので、要はこの18年間に上場企業株主にとっての株の価値の総和はほとんど変わらなかったことになります。現在東証一部の時価総額和は260兆円ですから、当時も260兆円程度だったのでしょう。
1984年度に日本のGDPは初めて300兆円を超え、以来常に300から500兆円のGDPを生んできました。この富は一体どこに消えたのでしょうか。株価は上がっていませんが、この18年の間に人々の生活は明らかにより豊かになったように見えますし、社会資本も遙かに充実したと感じます。鉄道も、道路も、ビルも、全てがあの頃より整備され、豪華になりました。国民一人あたりの名目の貯蓄額もかなり増えたことでしょう。年金受給予定額の総和も増えました。そして国の借金は大幅に膨張した訳です。日本の株価を上げる方策はいろいろあるでしょう。しかしどこかでこの単純な法則、とどのつまり総生産は労働に対する対価、社会資本・社会福祉などのコスト、そして株式などの民間資本を足した総和であること、従って株価が上がらない分どこかにお金が流れていることをもっと認識すべきではないでしょうか。そして借金によって数字を一時的にプラス方向にいじることは出来ても、それは「借金」ですからいつか返さなくてはならず、その時にマイナス方向にぶれるという付け替えであることも、もっとしっかりと受け止めるべきではないでしょうか。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、その後代表執行役会長。2025年4月より会長(現任)。東京証券取引所の社外取締役を5年間務め、政府のガバナンス改革会議等に参加し、日本の資本市場の改善・改革に積極的に取り組んで来た。ヒューマン・ライツ・ウォッチの副会長を務め、現在は米国マスターカード・インコーポレイテッドの社外取締役。東京大学法学部卒業。