日銀が銀行の保有株を買い取ると言います。2004年秋以降、銀行は自己資本以上に株式を保有できなくなるので、それを控えた持ち株売却による需給悪化を改善できるでしょう。株式という極めて価格変動性の高い資産を巨額に保有していることが、銀行の経営に大きな悪影響をもたらしているので、銀行経営に対してもいい影響があるでしょう。
しかし将来、日銀は銀行に(その時点でまだ存在していれば)株式を売り戻しますから、根本的な需給は改善されません。誰のコストによって銀行という私企業の経営を助けるのかも不明です。円は日本銀行券ですから、いわば日銀のバランスシートを担保とした借用書です。銀行が大量保有し、その値下がりや価格変動性に手を焼いている、正にその「問題資産」(いろいろな問題があるという意味であり、必ずしも悪い資産だとは申しません)を日銀の資産に移すということは、我々が毎日使っているお札の裏側の担保が、知らないうちに変わっていくということです。そのような重大事が、国会ではなく、日銀だけで勝手に決められていいものでしょうか?
加えて日銀は買い取り株に関しては議決権を行使しないつもりだと言います。何もかもが無責任です。すべてが大勢の国民に薄められるので実感が沸きませんが、こんなことででいいのでしょうか?
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。