週末の日経新聞に、東証が手口の完全非公開化を検討しているとの記事がありました。現状では証券会社にのみリアルタイムの手口は公開されていますが、実際には機関投資家など一部の大口顧客にはその情報が流出しており、個人投資家からは完全公開化を望む声が出されていました。一方大手運用会社からは、証券会社のディーラーが手口情報を見て先回りして売買するため運用に伴う売買コストが高まる、という理由で完全非公開化が要求されていました。
私は完全非公開化に賛成です。東証も言うように、証券会社や機関投資家と個人では情報端末インフラに大きな差があります。手口情報を東証側で完全公開しても、投資家サイドで得られる情報には格差が残り、またその情報をどの程度経済的に利用できるかについては大きな差があるでしょう。中途半端にそのような問題の原因を残すよりは、根っこから絶とうというのが東証の考えでしょう。そもそも立会方式を廃止する時の経過的な措置であり、手口の公開は世界でも珍しいものです。
手口の問題は、何が個人投資家にとって利益かということについて、複雑で誤解しやすい問題が含まれているので、慎重に議論する必要があると思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。