米中間選挙後、AI・半導体関連株が急落
前回10月1日付のコラム「【マクロ経済・投資環境2026年10月】高金利下で高まるクオリティの重要性、景気の成熟も見据える投資戦略を」では、経済全体が堅調でも、企業の収益力や財務基盤、投資回収力によって選別が進む可能性を取り上げました。米中間選挙後の株価急落は、その選別がAI・半導体関連株を中心に一気に進んだものと捉えられます。
米中間選挙で民主党が上下両院の主導権を握り、州知事選でも勢力を広げたことから、データセンター建設や電力使用、AIシステムに対する規制が強まるとの懸念が広がりました。
もっとも、直ちに景気後退の兆候とみる必要はないでしょう。AI関連株には、データセンター投資が高い伸びを続けるとの期待が相当程度織り込まれていました。規制強化の可能性をきっかけに、その前提が見直され、集中していたポジションが巻き戻された面が大きいと考えられます。
政策の膠着はAI投資を止めるのか?
民主党が新議会で上下両院を掌握しても、共和党のトランプ米大統領には法案への拒否権があります。拒否権を覆すには上下両院でそれぞれ3分の2以上の賛成が必要なため、民主党だけで大幅な規制強化を実現することは容易ではありません。データセンター建設を全米規模で一律に停止させるような政策が成立する可能性は高くないでしょう。
電力料金の上昇や水資源、環境負荷への対応は進むとみられますが、連邦レベルでは政策が議会と大統領の間で膠着しやすく、実際の規制は州や地域ごとに異なる形で進む可能性があります。
一方、政策の膠着には二つの面があります。追加的な財政支出や大規模減税が通りにくくなれば、国債増発やインフレへの警戒が和らぎ、長期金利のタームプレミアムの上昇圧力も抑えられます。しかし、政府予算や債務上限を巡る対立が激しくなれば、一時的に政策不透明感や財政リスクプレミアムが高まることも考えられます。
したがって、今後の焦点は、政策が完全に止まるかではなく、電力供給や建設認可などの制約によってAI投資のペースと採算性がどの程度変わるかです。投資計画が修正されても、直ちに経済全体の設備投資や雇用が大幅に落ち込むとは限りません。
現時点では「期待と需給の調整」、景気調整への移行はあるか?
足元の米国経済は、雇用や個人消費、企業活動などをみる限り、景気後退を示唆する状態にはありません。企業業績も堅調であり、株式市場の下落は、幅広い企業の業績悪化というより、AI・半導体関連を中心とした高い期待の修正から始まっています。
もっとも、AI投資は半導体だけでなく、建設、電力、通信設備など幅広い分野を支えてきました。データセンター投資の減速が長期化すれば、設備投資や雇用を通じて経済全体へ影響が広がる可能性があります。重要なのは、今回の調整が一部銘柄のバリュエーション修正にとどまるのか、企業利益や信用市場の悪化を伴う景気調整へ移行するのかを見極めることです。
相場の変動性はどこまで高まるか?
相場の需給調整がどこまで進んだかを測るうえでは、VIX(恐怖指数)が一つの手がかりになります。過去を振り返ると、米景気がリセッションに至らなかった株価調整局面では、VIXは概ね40前後でピークアウトし、その後、株価が反転してきた例が多くみられます。一方、景気後退や信用不安を伴った2008年の金融危機と2020年のコロナショックでは、同指数は80を超えました。
ただし、一定の水準に達したことが機械的な底入れを示すわけではありません。経済や信用市場に明確な変調がなければ、変動性の高まりは、過度な期待の剥落とポジション調整が進んだと判断する一つの手がかりになります。
反対に、変動性の高い状態が長引き、信用スプレッドの拡大、雇用の悪化、企業利益見通しの下方修正が重なる場合には、単なる需給調整ではなく、景気後退リスクの高まりを警戒する必要があります。市場の振幅だけでなく、その背景を確認することが重要です。
株価急落時に買われた米国債
今回の株価急落局面では、米国債に買いが入り、長期金利が低下しました。米中間選挙前に株価の変動が高まった局面でも国債への需要がみられており、債券が株式の値動きを和らげる分散効果を改めて発揮しています。
経済の基調が維持されれば、債券では比較的高い利息収入を積み上げることができます。一方、AI投資の減速が企業活動や雇用へ波及し、経済全体が変調を来せば、インフレ期待の低下と金融政策見通しの変化を通じて、長期金利には一段の低下余地が生じます。その場合には、債券価格の上昇が株式の下落を一定程度補うと期待されます。
波乱相場の行方は?AI集中から脱却する投資戦略を
米中間選挙が、トランプ政権にNoをつきつける転換点となった今、政策の方向性を巡る不透明感は高まっています。短期的には、政策を巡る高官発言から、相場が上下に振れやすい状況が続くとみられます。VIXの推移が示すように、経済の基調が大きく変わらなくても、政策への思惑やポジション調整によって相場の変動性は相応に高まり得ます。
こうした局面で重要なのは、日々の値動きに追随するのではなく、企業利益、雇用、信用市場などのファンダメンタルズに変調が広がっているかを冷静に見極めることです。これらが安定している限り、現時点では景気後退よりも、過度な期待と需給の調整の範囲内と考えられます。
株式ではAI・半導体関連への集中を避け、クオリティやバリューといった投資スタイルに加え、業種や地域の分散を意識する必要があります。さらに債券を組み合わせることで、短期的な相場変動に左右されにくいポートフォリオを構築したい局面です。
