古今集の話は度々書いてきましたが、春や夏の到来は「匂い」で気付き、秋の到来は「音」で気付くケースが多いようです。
五月待つ花たちばなの香をかげば昔の人の袖の香ぞする(読み人知らず)秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる(藤原敏行)これらは古今集の中でももっとも有名な二首ですが、一首目は夏の巻とは言え季節的には春から初夏にかけてでしょう。
今年の東京は天候が不順で、7月はやたら暑かったかと思うと8月は割と涼しく、9月に入ると珍しく台風が直撃して気温が上下にぶれて、季節感が若干混乱しています。鈴虫などの虫の声が既に徐々に静かになりかけているのに、未だにツクツクホウシやヒグラシの鳴き声も聞こえたりします。やがてこれらの音が全てなくなり静かになると、完全に夏の名残りは消え、冬がすぐ近くに迫ります。このように音が徐々に「減って行く」(diminish)ところが秋の季節感の骨格でしょうか。