3日間つぶやきはお休みしました(マネックスメールの冒頭部分に簡単な文章だけつぶやきの替わりに添えましたが)。
今日から再開です。暫くはどうしてもあの事件の話題が出てきてしまうと思うのですが、なるべく今まで通り広い範囲にわたって書いて行きたいと思います。その為にも今日は一旦まとめて事件について述べておこうと思います。
しかしながら事件についての一般的な解説や、善悪の評価などについては敢えて申し上げません。その代わりに2つの点についてだけ述べておこうと思います。コミュニケーションとコンフィデンスです。対話と信頼とでも言いましょうか。まずコミュニケーションについて。
今回の事件で思うのは、とかく世の中はロジカルでないことが多いということです。○という主張があればXという考えがある。世の中は不完全であり、全てのことを完全にコントロールすることは不可能です。であるからこそコミュニケーションは大切です。解決できなくてもいい。例えば議論が解決の兆しがあれば対話を続けますが、平行線になった場合に5分で対話を打ち切るのか、3日間でも或いは何年間でも「平行線の対話」を続けるのかは、ロジカルには前者の方が効率が良さそうですが、実際の世の中はそうでもないのではないでしょうか。何日間も平行線の話をして、「やっぱり平行線だな。また話そう。」と言って別れるのも立派なコミュニケーションだと思います。不完全であるが微妙なバランスというものがあり、それを維持するのは弛まぬコミュニケーションに対する努力ではないでしょうか。我々が皆同一ではなく互いに異な存在であり、また、であるからこそ全ての経済活動・社会活動が存在し得るということ、そしてその基盤を守れるのはコミュニケーション以外にないということを再確認すべきだと思います。
もう1つはコンフィデンスについて。先述したように、物事を完全にコントロールすることは不可能です。毎日の車の運転だって、対向車が突っ込んで来ると思ったら中央寄りの車線なんて運転できなくなります。おしなべて経済活動は信義則の上に成り立っています。企業価値がPER(株価収益率)、即ち利益の何年分かで計算されることが一般的であるのも将来にわたって何年間か企業活動が続けられるというコンフィデンス(この場合は期待と言った方がいいでしょうか)に拠っています。現代における経済は、実際の手元の財の動きなどよりも、このような信頼や期待によって形成されている部分の方が遥かに大きいと思います。例えば日経平均がこの1年ちょっとの間に半分までに売られましたが、日本の経済規模が半分になった筈がありません。ポジティブな期待からネガティブな期待への変化が株価をここまで下げた訳です。事件によって失われた物質や財は、経済全体から見たら(不謹慎な表現で大変恐縮ですが)限定的です。しかしここでコンフィデンスを失うと、その影響は計り知れないと思います。それは株価に限ったことではありません。他を信頼すること、他に期待すること。そういったことが失われないように、皆で細心の注意を払って、そして建設的に対応して行かなければいけないと思います。そういった意味で今世界のリーダーシップ達に求められていること、対応の内容は極めて重要だと思います。正しい対応をすると信じたいと思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。