証券取引等監視委員会の高橋委員長が就任にあたっての記者会見を行ない、個人投資家保護を強調されたとのことですが、これは大変結構なことだと思います。個人投資家の参加なくしてこの株式市場の回復は難しいということを政府もようやく理解したのでしょうか。
高橋委員長は日本の証券市場には『3つの不信』があると言い、証券会社への不信だけでなく、ヘッジファンドなどのプロの市場参加者にうまく利用されているのではないかという不信、不正を見逃している監視当局への不信があると言われたそうです。
私からもう2つ指摘させて頂きます。一つはあてにならないディスクロージャーをしている発行体に対する不信です。この3月の決算時に、前年9月の中間決算から半年間で5000億円以上の下方修正をしたある銀行の株は、その日売られるどころかちょっと買われました。その銀行のディスクロージャーを誰も信用していないか、情報が予め完全に漏れていたかどちらかです。もう一つはいつ売りに出されるか分からない持ち合い株に対する不信です。東証の時価総額の1割を超えると思われる上場株が持ち合われていて、これは政府の株式買取機構案などの行方次第によっては市場に出て来るかも知れません。これらの問題をきちんとけじめをつけないままでは個人投資家保護もありません。これは証券取引等監視委員会の問題ではないかも知れませんが、政府においてはこの点をしっかりと考えて頂きたいと思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。