商品ラインナップの見直しを進める食品・飲料関連企業

米国の大手食品・飲料企業は足元、商品ラインナップの見直しを進めています。背景にあるのはGLP-1系肥満治療薬の普及です。

一例として、ペプシコ[PEP]は小容量パッケージへの移行や高タンパクスナックの拡充を進めています。また、ゼネラル・ミルズ[GIS]が既存の主力ブランドを高タンパク仕様に刷新している一方、コカ・コーラ[KO](の経営陣)は、GLP-1利用者におけるプロテイン飲料へのシフトの可能性に言及し、プロテイン強化ミルク「fairlife」の増産を進めています。

世界に目を向けると、GLP-1服用者向けとして、スイスのネスレが食品ブランド「Vital Pursuit」を展開するほか、フランスのダノンは筋肉維持と消化器の健康をサポートするヨーグルトを販売しています。

各社が高タンパク製品に注力する背景には、GLP-1薬剤が体重減少と同時に筋肉量の低下を伴うという現象があります。一部の臨床データでは体重減少分の約20%が筋肉量の低下とされており、服用者が筋肉維持のためにタンパク質摂取を意識するようになっています。

よりマクロな視点でみると、米国疾病予防管理センター(CDC)は米国で肥満症を抱える成人は1億人と推計しています。こうしたなか、一部の調査によれば、2025年11月においてGLP-1を現在服用中の成人は12%程度にとどまっています(図表1)。普及余地が大きく残されているこの市場の拡大が、様々な企業の戦略に影響を及ぼしているのです(なお、World Obesity Federationは世界で2035年までに肥満症に罹患する人数を約20億人と推計)。

【図表1】米国成人のGLP-1服用状況の推移
出所:Kaiser Family Foundationよりマネックス証券作成

GLP-1の普及に伴い想定される消費者の行動変容、小食化・健康志向・運動ニーズ

GL-1を服用すると、食欲が抑えられ、少量でも満腹感が持続するようになるとされています。この「食欲の変化」が、服用者の日常的な行動の変化を促すとみられます。

具体例として、第1に飲食量の減少が挙げられます。実際、GLP-1服用者は食事量や間食を減らす傾向があります。コカ・コーラの決算説明会で、最高経営責任者(CEO)により「GLP-1服用者においてフルシュガーの炭酸飲料の消費が減少している」と言及されたように、従来型の高カロリー食品・飲料への需要は下押し圧力にさらされています。

また、嗜好の変化も考えられます。GLP-1は脂肪分の多い食品や甘味物への需要を低下させるとされています。限られた飲食量の中で栄養価の高いものを選ぼうとする意識が服用者に芽生えることで、健康的な食品への需要シフトが一定程度見込まれます。

最後に運動ニーズの高まりも想定されます。前述の通り、GLP-1の使用は筋肉量の低下を伴うとみられ、筋肉維持のための運動を目的とした運動が促されるでしょう。また、米国の家計を対象とした調査では、減量を目的としたGLP-1使用者は高所得者層が多いことが示されています。そのため、相対的に高価格の食品や活動への消費拡大も見込まれます。こうした一連の行動変容が関連企業の業績に影響を与え得ると考えられます。

消費の変化を追い風にする米国の注目業界・銘柄は? 

ここまでで述べたように、GLP-1の普及は消費者の行動変容を通じて逆風を受ける企業がある一方、消費者の支出増加に伴う恩恵が期待される企業もあります。

ライフタイム・グループ・ホールディングス・インク[LTH]

注目される業界の一つとして、フィットネス業界があります。具体的には、子会社を通じて高価格帯のフィットネスおよび娯楽スポーツセンターを保有・管理するライフタイム・グループ・ホールディングス・インク[LTH]が挙げられます。5月5日に公表した決算では、市場予想を上回る売上高と一株当たり利益(EPS)を公表したうえ、上方修正した売上高見通しが市場予想を上振れました。

【図表2】ライフタイム・グループ・ホールディングス・インク 株価推移
出所:ブルームバーグのデータをもとにマネックス証券作成
【図表3】ライフタイム・グループ・ホールディングス・インク 1株あたり利益(EPS)推移
出所:ブルームバーグのデータをもとにマネックス証券作成

加えて、同社のCEOが決算後のカンファレンスコールで語った見通しも示唆に富んでいます。アナリストから「GLP-1が業界にとって追い風となるか」と問われた際、体重減少と筋肉量減少、骨密度の低下といった影響に言及しました。そのうえで「医師や製薬会社が今後さらに教育を進め、GLP-1は負荷のかかる運動と組み合わせなければならない」ようになる、との見解を示しました。

さらに、CEO自身の40年の業界経験を背景に、消費者は「自分の体型を気にしている、太り過ぎだと感じている、という理由でジムに来なかった」が、「今後はむしろ『これなら、安心してジムに行ける』と感じるようになる」「あらゆる運動施設にとって、間違いなく大成功(ホームラン級の勝利)になる」「私に懸念はゼロです」と力強い見通しを明らかにしました。

プラネット・フィットネス[PLNT]

また、同業他社として、手ごろな価格のジムを運営するプラネット・フィットネス[PLNT]があります。インフレを背景に低所得世帯が財布の紐を引き締めるなか、現時点では相対的な劣勢にあるとみられますが、同社のCEOは「GLP-1利用者の多くは、フィットネスにおいても初心者である」「当社は、そのような人々にとって完璧な環境である」などとして、潜在的な関連顧客の取り組みに意欲を示しており、今後の動向が注目されます。

【図表4】プラネット・フィットネス 株価推移
出所:ブルームバーグのデータをもとにマネックス証券作成
【図表5】プラネット・フィットネス 1株あたり利益(EPS)推移
出所:ブルームバーグのデータをもとにマネックス証券作成

ナイキ[NKE]やルルレモン・アスレティカ[LULU]なども注目

関係性の輪を少し広げてみると、フィットネス需要の高まりに伴う副次的な影響を受ける企業として、スポーツウエアを手掛けるナイキ[NKE]やルルレモン・アスレティカ[LULU]などもあるでしょう。GLP-1服用者数が今後数年で急増するとみられるなか、消費行動の変化に伴い先々が期待される分野として参考にしてみてください。